2014年11月1日土曜日

明王秘鍵

明王秘鍵

不動明王 Acalanatha Candamaharosana Acala Vajrabhisana Amoghakrodharaja

不動明王これ南西の方護なり。南西これ死神ナイルリティーNairrtiの方角なれば一切除蓋障菩薩ルドラニルリティの姿をとりて死を封じたり。これ不動明王なり。ナイルリティーは南西の方角なれば方護はスーリヤが置かれるべし。
このとき対角の北東はソーマなるべし。両者を日月として別格とせるときは南西はヴィシュヌを北東をシヴァとすべし。これ故にヴィシュヌ日輪の性格を付与されシヴァ月輪の性格を付与されたるなり。
北東にプリティヴィー置かれることこれあり。この場合やはりプリティヴィーの頭上には月の置かれたるなり。

ソーマSomaこれ押し出す、搾り出す、抽出の義なり。おそらくこれ黄を含んだ赤茶色、また太陽の如くして千の鋲もてるとあればベニテングタケなり。これを日光で干すはベニテングタケこれ乾燥させたるに成分の変化固定ある故なり。これを石もて砕き水に晒し羊毛パヴィトラPavitraこれ浄化の義なるもので濾し、かつ搾り出せるは成分を溶かし出すなり。
これをインドラと称えられる牡牛に飲ませるなり。その尿は奔流と呼ばれ上質な羊毛で濾過し牛乳また酸乳と混ぜて飲むなり。これゾロアスター教のハオマと同様なり。牡牛の尿は最も清浄であり、これを浴びたり飲むことは清まる行為とされたり。

大インドラこれ赤茶色の身体を持ち、その内側は蒼穹なり。大インドラのソーマを飲みて地上に雨なせば大地は精力を得て動植物を育成するなり。小インドラたる牡牛の尿は人間を清め黄金に輝くソーマを抽出し人間の精神を賦活せしめ詩想をわかしむるなり。

梵僧にベニテングタケを食させて、その尿を飲むとするは根拠なき付会なり。ゾロアスター教の伝承からも牡牛の尿を利用して羊毛で濾し牛乳また酸乳と混ぜて飲めりとするが自然なり。
ベニテングタケこれ胃腸を障害する性質あれど牡牛の尿として濾過したるによって、薬理成分のみを抽出するなり。

事実、シベリアと平原の間に暮らす諸民族においては、酒が十分に供給される以前ベニテングタケで興奮する習慣あり。またベニテングタケを食べた人間の尿はベニテングタケ自体よりも心地よく楽しめるという報告もあり。
さらに北方ゲルマン民族においては神官の儀式としてベニテングタケをもちい男を狂戦士とし戦闘に参加せしめたり。これまさにインドラのソーマを痛飲しては、その敵を打ち倒す情景そのものなり。

ベニテングタケこれシベリアの森林と平原の境界を起源発生地とせり。古代においてはこの群生地に赴きそれを手に入れたれども、民族の南下に従い原ソーマは入手不可能となり失伝せり。代わって高地に入ると麻黄の仲間ありて、これをもってソーマとせり。ゾロアスター教のハオマとして伝わりたるはそれなり。されど更に南下した民族においては麻黄すらも失伝しソーマとインドラの勢力はこれを失いたり。

シヴァは雲なり。これの白く積み上げられたる様は山にして雨をもたらす吉祥のシヴァなり。シヴァ斜めに傾きて被れる象皮の灰色を見せつけたるはバァイラヴァ畏怖なり。象皮に包まれて全天暗黒となり内にルドラ咆哮するをマハーカーラとせり。

不動明王の座これ盤石なり。また火葬の積み上げられたる焚き木なり。これを積み上げ整えたることDahaと謂い、これ第一義に燃焼、第二義に火葬、第三義に安定の義アチャラなり。また池は盤の義にしてこれDahaというべし。

アチャラAcalaこれ第一義に不動、第二義に山嶽、第三義に巌石や岩盤、第四義に楔杭や螺子なり。また女性形アチャラーの場合は地球の義なり。また数字の七や菩薩になる直前の不動不退転の境地もアチャラというなり。
なればアチャラナータァの場合これ崇拝の対象としての嶽山尊また山嶽主の義にして嶽山明王。大山祇神の義なり。巌これ山に突き出たる巨石の義にして聖所の義なり。石これ信仰の対象となる結晶や堅い塊の義にして石巌明王。押し止め動けなくするものとして楔杭明王。このように訳して誤り無し。アチャラナータァAcalanathaの性格より明確なるべし。

ニルリティこれルドラなり。十一ルドラこれニルリティNirrti死と破壊、シャンブゥSambhu福祉を与える、アパラアジタAparajita比類なき、ムルガヴャーダァMrgavyadha野獣を狩り屠りたる天狼星、カパルディKapardi髪を編み込みたる、ダハナDahana焼尽、カァラKhara堅く鋭きにして傷つけたる、アヒブラドゥナAhibradhna大いなる蛇、カパーリKapali乞食の鉢をもてる、ピンガラPingala黄みがかった赤茶色の目をもてる、セーナニSenani将軍、の一であり、また羅刹とも目されたり。
世に言われる羅刹天はラークシャサーディパティRaksasadhipatiの訳にして本来は多聞天王のことなり。ニルリティと同ずべからず。しかれども多聞天王ナイルリティの軍勢を率いる首領なり。

ニルリティNirrtiこれアタルヴァヴェーダAtharvavedaの青黒い肌を持ち金色の捲毛なりとあればこれ不動明王の如し。ニルリティこれ黄褐色の捲毛にして体躯の肥満したる南方オーストラロイドの童子の姿なり。
オーストラロイドこれ童子の間のみ頭髪の捲毛黄褐色なりて成人するに黒褐色に変化したれば不動明王の童子とされるはこの故なり。古き不動明王の形像、これ容貌はニルリティの如く形像はラークシャサの如く服飾はシヴァの如くなり。

右手にクリカKulikaを纏い剣を持すべし。左手に羂索を垂らすべし。クリカこれダクシャの孫なり。カドルゥKadruの子なり。Kulikaこれ名族の義なり。劫火Kalpagniカルパアグニまたカルパに包まれたるべし。俗に迦楼羅炎と言われるは誤りなり。

ニルリティーこれ生命の離れ去るの義にして死亡、腐敗の義なり。ニルリティこれルドラの一にして死をもたらすなり。ナイルリティNairrtiこれ死魔の軍勢なり。ナイルリタNairrtaこれニルリティの子の義なり。ナイルリティーこれ南西の方角の名にしてドゥルガーなり。
なれば南西の方護に羅刹天を置きたるは誤りなり。これドゥルガーを置くべし。

ドゥルガーこれアヴェスターグに謂うドゥルジまたドゥルグなり。ドゥルDurこれ正義に反対する虚偽の義なり。転じて悪の義なり。ガGaこれ行う、関係するの義なり。つまりドゥルガー悪行、悪趣、悪党の義なり。悪に関係する義なり。 また転じて峻険、近寄り難きの義なり。

されどまた不動明王の正体に、より有力な一説あり。南インドの熱心なシヴァ信者であるVicarasarmanヴィチャーラシャルマン賢慮による至福の義にして、その献身を認められてシヴァにより神に昇格せしめられたるチャンデーシャCandesa激怒主それなり。おそらくヴェーダの成立以降に立てられたる新しく、また南インド発祥の神なり。

このCandesaまたChandesaと記されることあり。この場合は招待自在、歓喜自在、賞賛自在、成就自在の義にしてシヴァに迎えられ祝福されるヴィチャーラシャルマンの故事と形像はこちらの義に近しと思えり。忿怒相を示すチャンデーシュヴァラとチャンデーシャは異なる相と見るべきか。

チャンデーシャこれまずシヴァがシヴァを倒すという矛盾を解決したるなり。またシヴァに従属せる神もしくはシヴァの敵がシヴァを倒すという仏教における忿怒尊特有の構造を有せり。またその信者と主の間を仲介する僕という性格も近し。
不動明王これ肖像まさしくオーストラロイド、経にいう黄髪族の童子の容姿とりたるニルリティそのものなれど直接の性格はチャンデーシャのほうが近きと言えり。
また信者より昇格したる神にBhrnginあり。ブリンギンこれ大黒蜂の義にして、おそらくクマバチの義なり。針になりたる性器を第三足にして身体を支えたる三足の骸骨神なり。

また不動明王の図像これDvarapalaドヴァーラパーラ門衛夜叉にも極めて近し。このDvarapala片手に羂索の如くに蛇を持ちたるべし。もう片手には剣の如き杵を持ち、その柄頭からも蛇の伸びたるべし。けだしこれ輪に束ねたる蛇は羂索に、杵を剣に杵から伸びたる蛇これクリカとすれば、これまさに不動明王なり。不動明王のアチャラなるは石像の門衛夜叉の盤石に座りて不動なるに由来せるか。
実インドにおいては不動尊これ寺に多く門番として置かれたるの記録あれば不動明王これDvarapalaとも深く関係せたること明白なり。 
なれば不動明王とはこれニルリティの容姿とチャンデーシャもしくはチャンデーシュヴァラCandesvaraの性格とドヴァーラパーラの印象を併せたる尊格なるか。

不動明王これ大妙金剛経にある如く一切除蓋障菩薩の化身なり。一切除蓋障菩薩サルヴァニヴァーラナヴィシュカンビィンSarvanivaranaviskambhinこれ金剛夜叉菩薩、摧一切魔菩薩Sarvamarapramardinサルヴァマーラプラマルディンと同体なり。菩薩なれど常に劫火を纏うべし。一切除蓋障菩薩のマーラ害障魔一切を除くなれば不動明王の大摧障聖者と呼ばれるはこの故なり。
一切除蓋障菩薩これ熾盛火焔日輪に座すべし。これ臨照の義なり。右手に月輪を持すべし。これ智慧によって一切除蓋障せるの義なり。左手に三弁如意宝珠幢を持すべし。これ智慧によって一切成就せしめるの義なり。

般若波羅蜜菩薩プラジュニャーパーラミターPrajnaparamitaの教令輪身とするは誤りなり。般若波羅蜜菩薩の曼荼羅に描かれたるは後世の付会なるべし。おそらくこれ四波羅蜜菩薩の金剛波羅蜜菩薩と般若波羅蜜菩薩を取り違えたるなり。されど金剛波羅蜜菩薩もまたこれシュリー功徳天の菩薩の姿とりたるときの名前なれば、やはりこれ不動明王であるべくなし。
般若波羅蜜菩薩は陀羅尼の尊格化されしものなり。般若波羅蜜菩薩これ陀羅尼の尊格化されたるものなれば菩薩にあらず。そうであるならば仏母にもあらず。また配偶尊にあらざるゆえ明妃にあらず。

般若波羅蜜菩薩また大随求仏母マハープラティサラーMahapratisara、大密咒随持仏母マハーマントラアヌサーリニーMahamantranusarini、大千摧碎仏母マハーサハスラプラマルダニーMahasahasrapramardani、大冷持仏母マハーシータヴァティーMahasitavati、大孔雀仏母マハーマユーリーMahamayuriなど陀羅尼を尊格化したる仏尊は、その義をとりて持明ダーラニーDharaniとされるがよし。支える女の義なり。もしくは経の精髄を尊格化せたるの意をとりて明神とされるがよし。これらを明王とせるは誤りなり。

マハープラティサラーこれプラティ副詞にして、ついて対して従っての義なり。サラこれ行くの義なり。つまり求め行くところに従って援護したる義なり。結婚したるとき身に着ける御守りの輪、従者や軍の後衛をプラティサラというなり。
マハーマントラアヌサーリニーこれマントラ聖なる秘密の呪文。アヌサーラこれ随うの義なり。

マハーサハスラプラマルダニーこれまたマハーサーハスラプラマルダニーとされる場合あり。サハスラこれ千なり。サーハスラこれ千に属するの義にして多くの義なり。プラマルダナこれ第一義に粉砕破壊、第二義に敵を破砕する将軍の義なり。つまりマハーサハスラプラマルダニーこれ千軍を粉砕する義と千軍を率いたる将軍の二義あり。この場合に粉砕破壊される千軍とはブータとヤクシャの軍勢なり。なればマハーサハスラプラマルダニーこれ鬼霊の首魁マハーブータとマハーヤクシャを踏むなり。

マハーシータヴァティーこれまたマハーシタヴァティーとされる場合あり。シータこれ冷たき、また極寒なり。シタこれ光れり明るき白き精製され純粋なるの義にして太白また純白なり。太白つまり金星および月光また精製された砂糖などの冷たく白き耀きなり。つまりマハーシタヴァティーとせる場合これ太白持仏母もしくは大純白持仏母なり。
これを大寒林仏母と訳したる場合あれどSitavanaシータヴァナこれマガダ国の墓場の名との取り違えなれば誤りなり。されどマハーシータヴァティーこれ寒林に現れたる持明なれば寒林の冷気の主なり。

マハーマユーリーこれマハーマーユーリーとされる場合あり。マーユーリーこれ孔雀に属したる孔雀から得られたる孔雀から作られたるの義にして孔雀に由来する義なり。されど、どちらの用法もありて、どちらも正しかるか。

不動明王に明妃あり。これ除障金剛というべし。除障金剛は本名ブリクティーなり。顰蹙つまり眉を顰めて怒るの義なり。水波なり。
ブリクティーはまたシャーマターラーなり。緑の星晶の義なり。またチッタマニなり。 チッタマニは心宝珠の義なり。

ブリクティーBhrkutiこれ聖観自在の眉間から生ぜし黄ターラーの説あれども聖観自在の右目から放たれた青白き光から生じたるをいわゆる白ターラー、左目から放たれた青緑の光から生じたるをブリクティーとし姉妹尊と扱われたるべし。古き観自在菩薩像の脇侍これ必ずターラーとブリクティーなれば姉妹尊なること明白なるべし。
ブリクティーこれ聖観自在の眉間から生まれたのち聖観自在の左目に吸収され姉妹尊として再び生まれ変わりたるなり。

不動明王これ三面あるべし。中をニルリティルドラ面、左を蓮華部主尊除障金剛面、右を除障仏頂面とすべし。
除障仏頂ヴィキーラノーシュニーシャVikiranosnisaこれ妙栄徳菩薩の明妃なり。妙栄徳菩薩これ音訳にいう文殊菩薩Manjusriなり。除障仏頂これ文殊菩薩の智慧の神格化されしものなればこれ般若波羅蜜なるべし。 除障金剛と除障仏頂の真言はオーン・ブルーンなるべし。
この除障仏頂これ尊勝仏頂と同体であり熾盛光仏頂プラジヴァローシュニーシャPrajvalosnisa、大日一字金輪仏頂、釈迦一字金輪仏頂とも勝義において一体なり。

不動明王を祀るときは別堂に正法輪身たる一切除蓋障菩薩を祀るべし。右には一字金輪仏頂Ekaksarausnisacakraエーカークシャラウシュニーシャチャクラこれ遍照仏のジュニャーナにして秘密の義における仏眼仏母ブッダァローチャナーBuddhalocanaを祀るべし。左には白傘蓋仏頂シタータパトローシュニーシャSitatapatrosnisaを祀るべし。これ一切除蓋障菩薩のジュニャーナなり。
一面の不動明王を祀るときは同堂に明妃たる除障金剛ブリクティーを祀るべし。その右脇には除障仏頂を祀るべし。

また不空奮怒王アモーガァクローダァラージャAmoghakrodharajaあるべし。これ不空羂索観自在の金剛部の三昧に出だしたるものなれば同尊とも別尊とも言い難し。なれど諸菩薩各部での三昧において変化身をとりたるゆえ同尊としても誤り無し。 この不空奮怒王のCandesaに通ずればCandesaの不動明王に至る過渡か。
また不空羂索観自在の変化身に不空悉地王これあり。これアモーガァシッディラージャAmoghasiddhirajaなれば愛染明王の真言の一これフーン・シッディなり。つまり不空悉地王これ愛染明王への過渡にして、また愛染明王と不動明王の対なる起源なり。

また一説にヴァジラビーシャナ金剛恐怖またチャンダマハーローシャナ憤激大瞋恚およびトライローキャヴィジャヤと同体とする説あるもトライローキャヴィジャヤとは方角の交換のあるのみか。

ブリクティー額に第三眼あり。ブリクティー緑宝石の如く老坑翡翠の如く輝く十六歳の童女の如く牝馬の如くしなやかにつくるべし。 剣と如意宝珠を振り上げたるべし。数珠と梵篋、蓮華と水瓶を持すべし。
正面に二手にて鏡を持すべし。鏡これ如意宝珠の形に燃え盛りたる火焔の中にあるべし。この火焔月輪上にあるべし。月輪これ蓮華上に生まれたるべし。鏡の裏に三角形の下を向きたる一切如来智大印の描かれたるべし。
この義、第四灌頂の義なりてあなたの師はあなた自身に他ならずあなたの父はあなた自身に他ならずの義なれば甚深にして秘密なるべし。

ターラーTara特にシターターラーSitataraというべし。ターラーは星が輝くを意味せり。精光なり。夜に星の瞬くをターラーと謂い、海に魚鱗の閃くをターラーと謂い、瞳に光の煌くをターラーというべし。渡るを意味するタラと同ずべからず。
またシターターラーこれチンターチャクラというべし。如意輪の義なれど如意輪観音と同ずべからず。形像は白玉の輝く如く十六歳の童女の如く牝牛の如くゆたかにつくるべし。

如意輪観音はチンターマニチャクラヴァルティンCintamanicakravartinにして如意宝珠転輪聖王観音と訳されるべし。如意輪陀羅尼の威力を尊格化したるなり。転輪聖王如意宝珠観音は観音の宝部の三昧に住せる姿なり。

アーチャーリヤサットヴァつまり師範たるを本質とする多宝また宝生如来ラトナサンバーヴァRatnasambhavaは宝を生み出す如意宝珠の如く福徳を生み出し衆生を三界の法王の位に導く一切三界主如来なり。その三昧耶形これ如意宝珠なればそれを持てる観音は転輪聖王なり。転輪聖王はヴィシュヌから輪を与えられることから輪を持ちヴィシュヌの如き姿をとるなり。

シャーマターラーチッタマニ尊SyamataraCittamaniとシターターラーチンターチャクラ尊SitataraCintacakraの習合した部分もありうべくも形像異なるべし。 シャーマターラーは布教を助け悟りに導くに功徳あり。シターターラーは長寿と治療に功徳ありとされり。

また宝蔵天女と日本で呼ばれるものあり。俗に吉祥天と謂われるも誤りなり。宝蔵天女これの名ターラカTarakaなり。ターラカに三義あり。第一義にブリハスパティBrhaspatiの妻ターラカ、第二義にターラー仏母、第三義にターラカアスラなり。
されど宝蔵天女の天女形の少女なればターラーの日本への未完成な形での導入に他ならず。なれば槐林星晶仏母カァディラヴァニーターラーKhadiravanitaraとほぼ同じ姿なり。
槐林星晶仏母これ龍樹の瞑想したる槐林に顕れたるSyamataraなり。

ブリクティーの左脇にはジャアングリーJanguliを置くべし。ジャアングリーこれ毒指仏母なり。ジャこれ毒なり。もしくはJanを語幹として引き起こすなり。アングリーこれ指なり。ジャアングリーこれ毒を指揮する毒の知識ある、また蛇使いの義なれば三毒を能く除くなり。
もしくはジャアングリーこれJangalaジャーンガラの転訛とすれば乾燥せる野生なる飼いならされざるの義にしてジャーングリー不毛の地に住む野蛮な種族の義にして野生仏母なり。

されどジャアングリーの真言これオーン・ナマハ・シャバラクマーリ・イェー・チュールッチャァチャーディ・チャーラヤ・チュッチャーラヤ・サンガァッタニ・マッタマータンギ・アダヴィッデェー・アヘー・オーン・ジャハ・スヴァーハーなればジャアングリーのシャバラ族の童女なること、また酔象母なること明らかなり。酔象とは発情したる雄の香象の発せたる性臭に酔いたる雌象の義なり。
なれば草木に覆われざる、乾燥せる不毛の地なる、荒れ地に存在せるの義なるジャーンガラと酔うほどの香りに包まれる香木の森ある香酔山に住むシャバラ族の童女ジャアングリーとは義に合わずか。また蛇師の義をとりたれば蛇師仏母なり。

ジャアングリーこれ香酔山Gandhamadanaガンダァマーダナに住むシャバラ族の童女なり。黄ターラーPitataraともいわれるべし。形像は八歳の童女の如く作るべし。八歳の童女これガウリーとも呼ばれり。またジャアングリー秘密の義におけるサラスヴァティーまた毒の知識ある祓える者としてドゥルガーの異称なり。

ターラーの右脇にはクルクッラーKurukullaを置くべし。クルクッラーこれ北西インド語にしてサンスクリットではその義は不明瞭なり。サンスクリットにおいて北西インド語のクルKuruはKarotiの命令形にして成せの義なり。クッラKullaはサンスクリットのKulayaにして家や巣また籠や編物の義なり。つまり家を成せがクルクッラーの義なり。

古代において適齢期の男女には家族からクルクッラー家族を作れと言われていたと思われり。成家仏母なり。また赤ターラーRaktataraとされり。妙齢の婦人につくるべし。男女和合、家庭円満、子孫繁栄、一門隆盛の功徳あり。

ジャアングリーの左脇にはエーカジャティーEkajatiを置くべし。一髻仏母なり。青ターラーNilataraとされたり。あるいはMahacinataraマハーチーナターラー大秦星晶仏母と呼ばれるべし。大秦とは杵で大いに禾を搗く義なり。さらにはUgrataraウグラターラー激怒星晶大明としてドゥルガーと同一視されるなり。

形像は激怒せる老母につくるべし。額に第三眼あり。チベットにおいては土着神の影響を受けて奇怪なる形像に作られども本来は頭頂に団子の髻を結びたる怒れる老母なれば、そのようにつくるがよし。降魔調伏、所願成就の功徳あり。

またエーカジャティー観自在菩薩の第三眼より生まれたれば観自在菩薩とされることあれど同ずべからず。ターラー単独で祀られたるときこのエーカジャティーとマーリーチー脇侍なるべし。
ここまでの五ターラーが基本形式なり。けだし全ての仏母はターラーであるとの理解ありて仏母はことごとくターラーとして祀られることあるべし。

クルクッラーの右脇にはパルナシャバリーParnasabariを置くべし。パルナは葉からつくられたる、また森から調達せらるの義なり。シャバリーは悪意ある未開人の女の義なり。葉衣邪蒙仏母なり。本来シャバラ族の太母神にして肥えたる慈母につくるべし。薬師なり。衣服蚕神また家屋住居の護り神なり。

エーカジャティーの左脇にはパーンダラーヴァーシーニーPandaravasiniを置くべし。パーンダラーヴァーシーニーは浄白菩提心そのものにして阿弥陀仏の明妃なり。輝く白を纏うの義なれば白衣仏母なるべし。観自在菩薩また男尊とされるは誤りなり。
形像は妙齢の婦人につくるべし。単独で仏前結婚式の主尊たるべし。

パルナシャバリーの右脇にはガウリーマハーヴィドヤーGaurimahavidyaを置くべし。ガウリーマハーヴィドヤーこれ黄色を含んだ白に輝く牝牛の義にして生命力、豊穣、純潔、若さと青春の女神なり。白牛大明仏母なり。観自在菩薩にあらず。またガウリーは八歳児の義なればそのようにつくるべし。パーンダラーヴァーシーニーの脇侍とするべし。

パーンダラーヴァーシーニーの左脇にはマハーシュヴェーターバァガヴァティーMahasvetabhagavatiを置くべし。マハーシュヴェーターバァガヴァティーこれシュヴェーター光り輝く白、バガヴァティー分け与えたるまた産み与えたる物を持てるの義なれば恩恵、幸運、女陰の義なり。観自在菩薩にあらず。大光白富持仏母なり。幸福と妊娠出産の女神なり。
マハーシュヴェーターバァガヴァティーこれ十二歳の童女につくるべし。十二歳の童女これクマーリーというべし。パーンダラーヴァーシーニーの脇侍とすべし。

ガウリーマハーヴィドヤーの右脇にはマーマキーMamakiを置くべし。ヤクシーYaksiなり。金剛部仏母にして不動仏の明妃なり。降魔尊なり。マーマキーこれ我の母の義なり。秘密の義におけるハーリーティーなり。
我母に七母あり。サラスヴァティー、シュリー、ガウリー、ターラー、ハーリーティー、吉祥天ヴァジラヴァーラーヒー、ラティーRatiこれなり。

ケリーキラーKelikilaは婬戯の義にして第一義に浮気遊び第二義に性の戯れなりてケリーキラーはラティーまた触金剛Sparsavajraなり。この場合のガウリーはウマーにしてまたチュンダーCundaなり。ウマーUmaこれシヴァの頭頂から生まれたるシヴァのジュニャーナJnanaまたヴィドヤーまたプラジュニャーつまりシャクティなり。なれば仏頂尊の原型なり。仏頂尊これ女尊と知るべし。

マハーシュヴェーターバァガヴァティーの左脇にはマーリーチーMariciを置くべし。マーリーチーこれ陽焔の義なり。マーリーチーこれヴァジラヴァイローチャニーVajravairocaniにしてハヤグリーヴァの明妃とされり。降魔尊なり。ヴァジラヴァイローチャニーこれ秘密の義におけるラクシュミーにして自性輪身は大日如来なり。
これらターラーと呼ばれたり。時にマハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーこれバーヴァターラーBhavataraとして加わることあり。自在に組み合わせて配置すべし。

無能勝明王 Aparajita Prajnantaka Vajrakundali

無能勝明王これ地蔵菩薩がルドラアパラアジタの姿をとりてマーラから釈迦如来を護りしものなり。マーラは殺すもの壊す者の義にして害障なり。カーマデーヴァKamadevaの異名なり。また四マーラあり、五蘊魔また蘊魔、煩悩魔、死魔、天魔なり。蘊魔これブラフマBrahmaなり。煩悩魔これヴィシュヌVisnuなり。死魔これシヴァSivaなり。天魔これインドラIndraなり。

無能勝明王の異称にプラジュニャーアンタカPrajnantakaこれあり。この場合のプラジュニャーこれシャクティSaktiの義にして性の力また勢力を断滅するの義なり。

釈尊成道の時、マーラの軍団に襲われるあり。地蔵菩薩たちまち無能勝明王の姿を現しマーラを降伏せしめたるなり。地神に三神あり。古い地神にして後にドゥルガーDurgaと習合せたるも別なるアパラアジターとヴァスダーラーVasudhara持世仏母とプリティヴィーPrthiviこれ広大の義にして大地仏母なり。アパラアジターのマーラ来たれるを報せたり。釈尊これら堅牢地神の名において悟りを証明せり。
注意すべきあり。アパラアジターとアパラアジタの対で現れたる場合このアパラアジターは地神アパラアジターに非ずしてドゥルガーの変相なり。アパラアジタはルドラアパラアジタにてシヴァの変相なり。

地蔵菩薩これKsitigarbhaクシティガルバァなり。千躰に分身また様々な身分に変化して現世における救済を担う菩薩なり。ヴャーラに乗るべし。Kharadiyaカァラディーヤ山に住むべし。これ本生経に登場する鹿の一名なり。カァラディーヤこれ堅く鋭きにして切傷を与えるの義なれば雄鹿の角の義なり。鋭利山また鹿角山なり。鹿の多く住む山にしてSumeruスメール山これ妙高山を取り囲む七つの黄金山の一とも言われたり。

七黄金山に諸説あれど、およそこれなり。Yugandharaユガンダァラ軛軸受山。Isadharaイーシャーダァラ軸持山。Khadirakaカァディラカ脂木山。Sudarsanaスダルシャナ美麗山。Asvakarnaアシュヴァカルナ馬耳山。Vinatakaヴィナタカ彎屈山。Nemimdharaネーミンダァラ枠持山。および外輪を形成するCakravalaチャクラヴァーラ火円輪山。

地蔵菩薩これ地母神を起源としプリティヴィーやプーシャンなどと同体また機能を共有すると見做されり。同じく地母神を起源とするゾロアスター教のスプンタ・アールマティ女神とも性格の近きなり。またおそらくハーリーティーなどとも習合し子どもの守護尊とも見做されたり。

虚空蔵菩薩Akasagarbhaアーカーシャガルバァと対をなすべし。アーカーシャこれ虚空の義と共に宇宙に遍満する気の義なり。もってブラフマの異称なり。なれば虚空蔵菩薩と一体になるは梵我一如に等しきなり。遍在する宇宙の原理知識一切を知るなり。
五智宝冠を戴ける、あるいは五体で顕れたるはシヴァに一頭を落とされる前の完全なるブラフマの五面と五仏を重ね合わせたるなり。つまり五面虚空蔵菩薩は梵にして五仏智なり。

虚空蔵菩薩また金剛胎というべし。無限の智を蔵し智をもって導き福智を養長せる智を施す菩薩なり。地蔵菩薩は人の苦を代わりに受け救済し大地の如く善根を養長せる行を施す菩薩なり。

地蔵菩薩これ中国においては閻魔王と日本においては塞坐黄泉戸大神また道祖神などと習合せり。また日本においては子を守る神ともされたれど、それ以上に子の霊の降りる依代の神として地蔵菩薩そのものが愛されたるなり。地蔵菩薩これ前世の女性なる稀有な菩薩なり。前世の名前これ光目。サンスクリットにては、おそらくPrabhalocanaプラバーローチャナーなり。

マーラ・パーピーヤスMarapapiyasは害障の極悪なる義なり。この場合のマーラこれカーマなり。カーマこれ、いわゆる第六天魔王のことなり。六欲天の頂上に住む欲界の主なり。他化自在天と呼ばれるは天の名称を尊格の名称と誤りたるなり。
弓を持ち、妻ラティーRatiと愛人プリーティPriti、また従者ヴァサンタVasanta春の義を従えたるべし。子にハルシャHarsa喜悦の義、ヤシャスYasas美麗の義、ナンディNandi歓楽の義これあり。
カーマの別名にアナンガあり。アナンガAnangaこれ気の義なり。

持世仏母これ稲荷なり。天衣を纏い多くの宝石をつけた宝冠環釧瓔珞を身に着け荘厳なるべし。右手には財宝の溢れる壺を持つべし。左手には稲穂を持つか担ぎたるべし。稲束もしくは蓮華に座すべし。もしくは半月輪田に蓮弁の如く頭垂れる稲穂上に出現すべし。

配偶者は宝賢大将なり。ジャンバァラとして白獅子もしくは龍もしくは財宝に座すべし。ダーキニーDakiniを稲荷とせるはダーキニーの義これ巫女なれば稲荷そのものにあらず。
稲荷を祀るとき脇侍あるべし。シュリーヴァスムカー、ヴァスマティシュリー、シュリーヴァスダーラー、ヴァスシュリーの四分身なり。もしくはアンシャ利益神、バァガ生産神、プーシャン栄養神、パルジャナ雨雲神を脇侍とすべし。

また稲荷これ老爺の説あれど、これ地主神にして稲荷にあらず。なればこの老爺の祀られたるは稲荷社にあらずその上社なればなり。この老爺の名の太多羅持男なればヒメタタライスズヒメ持てるの義なりて大国主の和魂大物主なり。
この大国主をパーンチカと同体とすればヴァスダーラーはパーンチカとハーリーティーの娘なり。ハーリーティーの娘を吉祥天とされることあるはこの故なり。されど誤りなるべし。ハーリーティーの娘これ持世仏母これなり。

釈尊これシャーキャムニ仏なり。古来シャーキャムニSakyamuniの能仁と訳されたるが誤りなり。仁これ同じ敷物に二人座して心通わせるの義にしてムニの義にあわず。
ムニの義の霊感を得たる行者また転じて賢人や予言者なればムニの義は哲なり。シャーキャムニこれ能哲如来なり。
哲の義これ悟ること、明らかに知ること、神明に通じることの義なればシャーキャムニ能力のある哲人の義なり。神明とはこれ優れたる霊の働き、優れたる心の働き、優れたる徳の働きの義なり。また精髄なり。
釈尊の教えこれ勝義においては信仰や崇拝の対象になる実有の存在を否定するものなれば論理をもって理解するものなり。理解されたるものなれば、そこに理解されざる実有これなし。シャーキャムニこれ能く哲れる者の義なれば能哲なり。

無能勝明王に十三面あり。中にアパラアジタルドラ面、右にチャンダーリー面、左にマータンギー面なり。頭頂に瑜伽女の十面を出すべし。
無能勝明王の真言これオーン・フルフル・チャンダーリー・マータンギー・スヴァーハー生起せよ祓え祓えドゥルガーよ善くあれかしにして薬師如来と同一なり。なればチャンダーリー・マータンギーこれドゥルガーの異名にしてシャクティの主としてのドゥルガーを呼び出して魔を祓うの義なればなり。
無能勝明王の真言これオーン・フルフル・チャンダーリー・マータンギー・スヴァーハーにして、正法輪身これ地蔵菩薩なれば勝軍地蔵なる尊格これ無能勝明王に他ならず。

無能勝明王また一説にヴァジラクンダリーの異名これあり。この場合のクンダリーこれシャクティ性力の義なり。もって不壊の性力、単純なる欲望をボーディを得るための力に高めたるの義なり。

繋縛断滅明王 Yamantaka Vajrabhairava mahisasamvara Vajradanda 

繋縛断滅とはヤマアンタカYamantakaの訳なり。大威徳明王はバァイラヴァの義をとりたるものなり。ヤマに四義あり、第一義に双児、第二義に繋縛、第三義に死、第四義に法王なり。アンタカはヤマの異名の一なれば断滅の義なり。またヤマの異名にムリチュMrtyuあり。死の義なればときに死后として独立に扱われることこれあり。
繋縛断滅明王の義は生と死の双子、両者の繋縛を断滅し生と死を超えた境地に達しませる法王の義なり。

繋縛断滅明王に三面あり。中にバァイラヴァルドラ面の水牛相、右にヴァイシュラヴァナVaisravanaのヴァジラバァイラヴァ面、左にヴァイヴァスヴァタVaivasvataのヴァジラバァイラヴァ面なり。繋縛断滅明王これ世においてヤマの姿の借りられたると思われしが誤りなり。
ヤマに忿怒相のなかりせばこれシヴァのヤマを殺せる相であるカーラアンタカまたカーラアリと呼ばれたる相を文殊菩薩の借りたるものと知るべし。ヤマの異称これカーラなり。もってシヴァとヤマの同一視されることあり。

多聞天王これシヴァの友人にしてナイルリティを率いたる軍主なればこれもまた死神なるべし。金剛名をヴァジラバァイラヴァというべし。これ三バァイラヴァなり。

また繋縛断滅明王に明妃あり。カーララートリーKalaratriまたチャームンダーと謂われるはそれなり。この二尊は後世においてドゥルガーの化身とされり。またヤマの明妃ヤミーYamiであればヤマアンタカこれシヴァの忿怒相なること明らかなり。

ヤマは本来ヤマ天にありてヴィヴァスヴァットVivasvatの子ヴァイヴァスヴァタなれども後世に冥界の死神とされたり。冥界に住めるは冥河神ヤミーなり。ヤマは天界にて死者の主となり先祖たちと暮らせるアーディティヤなり。光明神なり。ヤミー地獄にて罪深き亡者と暮らせり。なれば閻魔王とは女王なるべし。或は奪衣婆と呼ばれたるはヤミーの変相なりしか。
けだし仏教においては人間は自らの迷妄により暗い方に行きたい者は六道へ明るい方を望むものは浄土涅槃へと自ら行きたれば閻魔王を見るは迷妄の内なること知るべし。

またヤマに脇侍あり。これチトラグプタCitraguptaなり。チトラグプタはブラフマの子なり。チトラグプタこれ秘密を露見せしむるの義なれば天の司法取締官なり。泰山府君また赤山大明神と同体とされり。陰陽道の主尊なり。

分身これありてラクタヤマアリRaktayamari血染繋縛怨敵とクリシュナヤマアリKrsnayamari黒闇繋縛怨敵それなり。ラクタの義これ赤き、血、染まりたるにして血染なり。クリシュナの義これ青黒き、光白に反対す、邪悪にして黒闇なり。黒闇これ仏教において迷妄の義なり。アリこれ仇敵、対敵、怨敵の義なり。怨敵これ殊更に深くうらみ敵対する義なり。仏教において怨敵退散を唱えて対敵の降伏を祈願するなり。

また一説にマヒシャサンヴァラ水牛を押し止めるの義またヴァジラダンダ金剛笏杖の異名これあり。

愛染明王 Takkiraja Ragaraja Amogasiddhiraja Mahakala

愛染明王これタッキラージャなり。また愛染明王これマハーカーラなり。その本体は正了知大将にして本名はパーンチカなり。ラーガラージャの異名は正了知大将これ全身の赤きゆえなるべし。
タッキラージャこれ正了知明王と呼ばれるべし。また異名として夜叉の大将軍の義をとりて大将軍明王。パーンチカの義をとりて五部族主明王。ラーガラージャの義をとりて愛染明王。マーハーカーラの義をとりて大黒明王。アモーガァシッディラージャ不空成就王の義をとりて不空成就明王などがありうべし。

愛染明王これ一説にヴァジラヤクシャVajrayaksaまたヴァジラジヴァラアナラールカVajrajvalanalarkaと同体の説あり。

パーンチカはガンダーラの守護神パーンチャーラガンダPancalagandaの息子なり。このパーンチカはガンダーラにおいて祟り神にして守護神、宝蔵神として食堂に祀られたり。祟り神を篤く敬えば福神となるという信仰なり。
このパーンチカ常に食堂に置かれ煙に燻され油で拭かれたれば漆黒の像になりたり。されば人々この神像を偉大なる黒い神マハーカーラと呼ばれるようになれり。これ現在に伝わるマハーカーラがシヴァ神の破壊相であるニーラアスラNilaの象皮を纏いアンダカアスラAndakaとプラジャーパティPrajapatiを降伏せたる太鼓腹に猪頭の戦士マハーカーラと似たるとこなき理由なり。

愛染明王の護法尊としての由来は古来のパーンチカのあるいは食堂に祀られ、食堂なくば台所に祀られ、また東寺において、かつて門衛としてハーリーティーと共に夫婦で祀られていたように、寺院の門に祀られたればなり。
台所に祀りては食料を呼び込む福神マハーカーラとして、門衛として祀りては悪霊病魔を祓うなり。

ガンダーラGandharaこれ第三音符の義なり。香りと訳すは古来の誤りなり。ガンダーラこれ三つの峯に囲まれて形成されたる盆地なれば第三の調べにより与えられたる土地の義なり。二峯であれば盆地にならねど第三の峯あることにより成ればなり。三峯と訳されたるべし。

そもそもこのマハーカーラがシヴァの化身その破壊相であるマハーカーラそのものであればシヴァやその息子であるバァイラヴァやガネーシャまたカールッティケーヤKarttikeyaを降伏する尊格としてあるべくなし。また観自在菩薩やヴァジラサットヴァVajrasattvaの化身とされるべくなし。これこの場合のマハーカーラの正了知大将なればなり。

チベットや日本に伝わるマハーカーラは宝蔵神であり時に祟り神であり時に大将軍神として祀られるパーンチカなり。このパーンチカ日本においては大国主と習合した故にかの姿になれりと思われしがガンダーラのパーンチカとその形像さほど変わりなし。
頭にはウシュニーシャつまり頭巾を被り鼠色の袋を持てり。けだし日本の大黒天は袋の大なるなり。マハーカーラをシヴァと解釈した場合にニーラアスラの皮の被れるを混同せしか。持てる鎚は木槌に変わりたり。服は着たるも日本に来たれる天部の本来は諸肌脱げるも皆これ衣服を着用するなれば異とするにあたらず。
むしろ日本の神像に似たるとこ少なし。後世の大国主命は逆にパーンチカに近づけて形像されたりといえり。

ウシュニーシャUsnisaを被れるは古代北西インドの習慣にして、その習慣を知らざりし後世の人が仏陀像を作りしとき頭巾の形また貴族の髻髪と知らず仏陀の頭に仏頂を載せり。

パーンチカに配偶者あり。これハーリーティーHaritiというべし。掠奪の義なり。またウッタラーUttaraパーンチカの土地より北にある女ともナンダー歓喜母ともヴィカーラーVikara不具者また異常者の義なるものといわれたり。
寺門の上に祀られたる男女夜叉はヴィカーラーことハーリーティーとパーンチカに他ならず。またハーリーティーと共に祀られる大黒天はシヴァの破壊相であるべくなく、宝蔵神であり祟り神でもあるパーンチカに他ならず。
古来よりハーリーティーの夫が大黒天とされるは日本の大黒天の正体がパーンチカであるからに他ならず。

このパーンチカまた摩多羅神としてウシュニーシャを烏帽子とし、鼠色の袋持てる故また北斗北辰の子の星神として鼠顔となれり。されど大黒天であるとして祀られたり。
鼓もて踊れるはマハーカーラをシヴァの変相と解釈した故の舞踊王ナタラージャNatarajaの持てる鼓なり。もって芸能神と見做されり。狩衣を着れるはシヴァの射手ピナーカパーニPinakapaniなるを示せり。広隆寺の記録には摩多羅神これ牛に乗り左手に鼓、右手に三股叉を持てるのあれば、これ牛はナンディンにて左手の鼓はダマルDamaru、右手の三股叉はトリシューラTrisulaなること明白なり。これすべて摩多羅神のシヴァなるを暗示せたり。日吉社鼠祠には子神としてこの形像の伝えられたり。
Mitraミトラ神との説あれど性格、故事、形像の全く不一致なれば付会に過ぎず。

脇侍ていれいたはプレータPretaなり。プレータは先に逝きし者の義なれば未だ天界に行かざる亡霊また餓鬼悪霊の類なり。脇侍にしたはこれニシータァNisithaなり。丑三刻のころ真夜中の義なり。深夜神なり。
ニシータァこれ夜Dosaドーシャーの擬人化されたる三夜の一なり。闇夜なり。PradosaプラドーシャまたSayaサーヤこれ宵なり。Nisithaニシータァこれ闇なり。Vyustaヴュシュタこれ暁なり。

笹の持てるは笹これ祖霊の降りる依代と考えられたればなり。茗荷の持てるは冥加の義なり。冥加とはこれ神仏祖霊の加護であり冥界の住人に災厄や短命を免れるよう願う義なり。善神には吉寿幸福をもたらすよう願い、祟り神には厄夭災禍から逃れられるよう願うなり。
この摩多羅神信仰の秘密なるはマハーカーラとして深夜に信仰されるべき義のみならず。本来は仏敵であるシヴァ信仰の要素あればなり。

またマハーカーラと呼ばれるにヴィシュヌとプリティヴィーも動植物の生育者としてこれあり。
堅牢地神の大地を支える男性として現れたる場合あるは或はヴィシュヌの変相のありうべし。那羅延堅固と呼ばれたることあるはこの義か。
なれば持地神Dharanidharaダァラニダァラとはこれヴィシュヌの異名にほかならず。

摩多羅神の頭上に北斗七星あり。これ摩多羅神の本性を示したる暗号なり。北斗七星これサンスクリットにおいてはスダルシャナSudarsanaと呼ばれたり。俗にスタルシャナと伝わりたるは訛りなり。なればスダルシャナの漢訳は妙見なればスタルシャナにあらずスダルシャナなること明白なり。スダルシャナこれ妙見菩薩と古来より呼ばれたるものなり。

このスダルシャナにサンスクリットにおける義これあり。第一義に見目麗しい、美麗これなり。第二義にシヴァ。第三義に北方の山。第四義にヴィシュヌのチャクラ。第五義に北斗七星と北極星を含む北斗の美称、妙見これなり。
この中で神名であり、かつ尊格の性格に一致せるは唯一シヴァなり。そしてスダルシャナのこれ形容詞なれば妙見つまり妙なる見目と古来より呼ばれし性格不詳の菩薩これシヴァに他ならず。よく見通すの意味にとられること多しがその義なければ誤りなり。

現在に伝わる妙見菩薩の名これスドルシュティなり。されどスドルシュティに妙見の漢訳、妙なる見た目の義これなし。スドルシュティこれ善く見通せるの義にして尊格としての名称にこれ無し。また善く見通すの義をもって禿鷹の称なり。
スドルシュタこれも同様であり形容詞にして尊格にあらず。スドルシュまたスドルシィーこれ美しい目をした婦人の義。スドルシャこれ善見にして善見天なる天界の名としてあるのみなり。おそらくスドルシュティこれ漢訳からサンスクリットに復元したるなり。

北斗七星これスダルシャナにしてこれシヴァなり。スダルシャナこれ妙見にして摩多羅神なり。北斗のうち北斗七星の寿夭禍福をつかさどる祟り神にして福神なりて、また北辰これ群霊を統御するとあればブーテーシュヴァラBhutesvaraまたブータダーマラBhutadamara金剛手菩薩所変群霊統御明王に他ならず。これシヴァの異称なり。ヴェーダ・プラーナ文献また仏教にスダルシャナなる尊格これシヴァのみしかあらざればこれシヴァなること明らかなり。

摩多羅神の後戸の神なるはシヴァのブーテーシュヴァラまたブータダーマラBhutadamaraであるからに他ならず。もって無量寿仏アミターユスAmitayusを本尊とせる苦行中に現れる魑魅魍魎ブータBhutaを魑魅魍魎の主であるシヴァに調御せしめる義なり。更にこのシヴァの主はシヴァナータァSivanathaつまり観自在菩薩なればシヴァこれ阿弥陀仏の眷族なること明らかなり。北斗七星の暗号によりて摩多羅神そして妙見菩薩の謎の全て解き明かされたり。
そもそも妙見菩薩においてはその心中心呪においてオーン・マハーシュリーイェー・シヴェー・スヴァーハー。生起せよ大栄徳ある者よシヴァである者よ善くあれかしとあれば妙見菩薩のシヴァなること明白なるべし。

摩多羅神の脇侍なるプレータとニシータァに神語あり。曰くシシリシニシシリシ、ソソロソニソソロソ。これ知りたるに知っている、立てたるに立っているの義なり。シシリは知せりソソロはそそるにしてそそり立つまた気をそそるの如く物や心が起き立つの義なり。これつまり摩多羅神を知るならそれは既に知っているなりの義にして摩多羅神を立てるも既にそれは立っているの義なり。新しく現れたる神のように見えど従来の尊格の異なった顕れ方に過ぎないことを示せり。
けだしこの語句に秘密の義これあり。シシリシニシシリシ知りたるにそれと知るなればこれ正了知の義つまり正了知大将パーンチカの義あること示せり。ソソロソニソソロソ立てたるにもとより立てりの義なればこれスターヌSthanuつまりシヴァまたシヴァリンガの義なり。摩多羅神に多義あるを示せり。

これまでの摩多羅神に関する考察これサンスクリットの不勉強による妄想付会の集まりに過ぎず。サンスクリットに基づき解釈すれば全て解けたればそのこと明白なり。摩多羅信仰の排斥されしはシヴァ崇拝たる本質を見抜いた古人の卓見によるものなり。摩多羅神の牛に逆向きに乗れるは後ろ戸の神またそれを崇拝する背教の義なり。
つまりマハーカーラこれ一つの名前に本来のマハーカーラ、シヴァ、ドゥルガー、ヤマ、パーンチカ、ガネーシャ、マータリー、ヴィシュヌ、プリティヴィー、と多くの義を含むにて形像と尊格に多大な混同が生じたり。

ブータダーマラBhutadamara群霊統御明王あり。これアパラアジターを踏めりとあれどこの場合のアパラアジターこれドゥルガーの義なれば誤るべからず。

また摩怛利神あり。これマータリーMatali夜叉なり。マータリー夜叉は地母神の胎内に住める母住また胎住夜叉の義なり。多聞天王の眷族なり。ガンダァルヴァGandharvaの長老とされる説あり。
また地獄でマータリー夜叉などと一緒に住せるがサプタマータリカーSaptamatrkaなり。カーララートリー、サラスヴァティー、吉祥天ヴァジラヴァーラーヒー、クマーリーKumariはインドラの娘デーヴァセーナーDevasena神軍また天の女将、歓待主の義なり、与力天シャチーSaciこれ力能を与え支援するの義また一名に精力あり、栄徳の義シュリーSri、隠修女チャームンダーCamundaこれなり。マータリー夜叉これ女性形の如くなれど男性なるべし。

後世においてラクシュミーLaksmiとシュリー混同されしが本来は別尊なり。ラクシュミーに姉ありと謂われり、ジェシュターアラクシュミーJyesthaまたAlaksmiと呼ばれたる尊格それなり。大姉である衰退没落の義なり。災厄と疫病の神なり。けだしラクシュミー単独でパドマより生まれたりとあれば変化身といえり。カーララートリーなどが姉であるというのは誤解なり。されどアラクシュミーこれナイルリティーやカーリーなどと同体とする説あればドゥルガーをラクシュミーの姉とする説なり。
またラクシュミーにダートリDhatrとヴィダートリVidhatrの両兄ありとも謂われたり。ダートリは造物主、能持の義にして宇宙天体を創り維持したる古い神なり。ヴィダートリは運命の義なれど擬人化された運命の概念にして詳細なし。されど後世においてダートリとヴィダートリこれブラフマとヴィシュヌの異称となれり。

カーララートリー、チャームンダーはこれドゥルガーの一形態なればチャームンダーをヤミーとすべし。マータリー夜叉、サプタマータリカーと同居せるによりまたマハーカーラと混同されしなり。また摩怛利神と摩多羅神自体も混同されてあるべし。

チャームンダーこれドゥルガーのアスラチャンダCandaとアスラムンダMundaを倒すために生み出したる戦神とされたれば、この兄弟アスラの名前を繋げてチャームンダーとなれりとされるも、これ後世の付会なり。
チャームンダーこれムンダ族の神であり太母神なり。Caの義これ覆われたる隠れたるの義なり。Mundaこれ禿たるの義なり。また特に尼僧を指すなり。合わせて隠修女の義なるか。
本来は肥えたる慈母なれどヤミーと習合して怪異なる容貌となれり。

サプタマータリカーこれシヴァの破壊相であるマハーカーラがアスラアンダカと闘いし時に生み出したるものなり。またこの時ヴィシュヌが戦神シュシュカレーヴァティーSuskarevatiを生みだし加勢させたという神話あり。シュシュカレーヴァティーこれ干乾びたる水に富める牝牛の義また貧困の義なり。チベットにいうペンデンラモとはこれなり。子に病もたらす祟り神なり。その形像カーララートリに似たり。役割はチャームンダーに似たり。

雙身毘沙門天と呼ばれる尊格あり。この半身は半天波羅門ペンデンラモであるとの説あれど、これペンデンラモの古来より毘沙門天妃シュリー吉祥天と混同されたことによる誤解の産物なり。されどペンデンラモの正体がシュシュカレーヴァティーにしてマータリカーの戦神なればシュリーもまたマータリカーにして完全には誤りならず。毘沙門天も死神を率いる死天の相あれば両神の祟るとき破壊と死滅のもたらされるなり。両神の嘉するとき繁栄と福徳のもたらせるなり。
またシュリーと混同されたるに妙見菩薩あれど、これ摩多羅神にしてシヴァなれば雙身毘沙門天とは毘沙門天とシヴァの一種のハリハラなり。なればシヴァは吉祥の義にして男子の吉祥天なり。して毘沙門天ヴァイシュラヴァナとシヴァは義兄弟なり。つまり雙身毘沙門天の両身男子で現れたる場合は毘沙門天と吉祥シヴァ天による雙身毘沙門天と知るべし。

この闘いの後にシヴァの大将軍であるガネーシャにも率いられしことからガネーシャもまた摩多羅神と扱われることこれあり。パーンチカと同様に祟り神にして宝蔵神であることから、チベットでもパーンチカこれKala黒ジャンバァラ、ガネーシャこれRakta赤ジャンバァラと謂われるべし。ただしチベットにおいては誤解混同多し。

ガネーシャGanesaの異称に毘那夜迦ヴィナーヤカVinayakaあり。古来より障碍の義と謂われしが甚だしき誤りなり。ヴィナーヤカの義これ障害の除去者、案内者、指導者、将帥、導師、善導の義なり。障碍の義これ全くなし。古来の中国と日本における大誤訳なり。
また異称に扇那夜迦もしくは禅那夜迦あり。これチャンナヤカChannayakaにして覆われたる者、隠れたる者、秘密の者の義なり。秘密の神の義なり。また弟のスカンダの本名もグハGuha秘密なるべし。ヴィナヤカとチャンナヤカを兄弟とせるときはガネーシャとスカンダの兄弟と知るべし。
そもそも経に大自在天の子の千五百人を毘那夜迦が率い残り千五百人を扇那夜迦が率いるとあれば扇那夜迦のグハなること明らかなり。毘那夜迦と扇那夜迦を夫婦として抱き合わせるは誤解も甚だしきなり。

つまり摩多羅信仰これパーンチカを誤認せるマハーカーラをシヴァの変相であるマハーカーラとさらに誤認したうえで生じたるシヴァとその眷族を崇拝する秘教といえり。マハーカーラを媒介としてシヴァとガネーシャ両大神に率いられるドゥルガー含むマータリカーやダーキニー、牛神ナンディン、諸々の暗黒神、夜叉、悪鬼、亡霊、闇の力を己が物とせんとするものなり。けだし仏教以前の初期密教の発想に近いともいえり。ガネーシャとダーキニーおよびシヴァは阿弥陀仏の眷族と知るべし。

ジャンバァラJambhalaこれ噛砕貪食の義なり。噛み砕いて貪り呑み尽くすなり。古来の悪魔の名なり。Pita黄ジャンバァラこれクベーラヴァイシュラヴァナ多聞天王であり、Sita白ジャンバァラこれ宝賢大将マニバァドラManibhadra如意宝珠善神王であり、Syama緑ジャンバァラこれ満賢大将プールナバァドラPurnabhadra円満具足善神王なり。
如意宝珠善神王ときに猪頭を出せり。円満具足善神王ときに龍頭を出せり。日本に伝わる宝蔵神の姿これ獅子に乗りて、その真言にマニバァドラの名前とジャンバァラの共通真言たるオーン・ジャンバァラ・ジャレンドライエー・スヴァーハーの語句あればジャンバァラ第一義にマニバァドラなること明白なり。

またパーンチカこれタッキラージャなり。パーンチカはまたサンジュネーヤSamjneyaまたサンチントヤSamcintyaと呼ばれたり。これ、そのように知られるべきまたそのように思われるべきの義なれば思択なり。これをもってパーンチカは正了知大将と言われたるべし。

タッキラージャこれあり。タッキは北西インド語なりてサンスクリットによっては不明瞭なり。タッキはサンスクリットにおいてはTarkaにしてこれ推測、考慮、思択の義なり。思択とは対象に対して正しくその思考が達しているかを深く考え推理する、そして検証の結果それがそうであるなればそれをそれとして知るべき呼ぶべき択びとるべきの義なり。
けだしタッキラージャとは、そのように知られるべき、また正しく了知せる王の義なりて正了知大将これサンジュネーヤにしてパーンチカPancikaに他ならず。
またTakkiに吝嗇家や乞食の義あるは物乞いが当て推量でもっとあるだろうとたかりたる故なり。

仏教においては思考を二種に分けたり。パーリのVitakkaサンスクリットにおいてはVitarkaヴィタルカとVicaraサンスクリットにおいても同じヴィチャーラなり。Vitarkaこれ事物に対する解釈の意思にしてTarka推測、考慮、思択をVi放つの義なれば釋意なり。
VicaraこれVi放つCara動く巡るの義なれば心に表象された事物を検査、分析する義なり。Vitarkaは解釈にして変化すれどVicaraは分析の上の事実なれば、それとされた事物はそれとして固定されるべし。
このVitakkaとVicaraがヴィタッカこれタッキラージャとなりヴィチャーラがヴィチャーラシャルマンまたアチャラとして実在の夜叉羅刹神とされる異民族と同一視また尊格化され、かつ対とされたるべし。

パーンチカこれ多聞天王の子とされることあり。されど多聞天王の子はナラクーバラNalakubaraとマニグリーヴァManigrivaの兄弟なれば、パーンチカは子にあらず。多聞天王の大将軍と知らるべし。この誤解多きはパーンチカの異称サンジュネーヤにあるべし。
多聞天王の長子に諸説あり。サンジャヤSamjayaあるいはジャネーシャJanesaなり。これらの名前とサンジュネーヤを混同したるが誤解の理由なり。
このうちジャネーシャは人の王の義に過ぎずこれ多聞天王の異称なり。ジャネーシャは善膩師にして善膩師は子にあらず多聞天王の称号を子と誤解したるなり。またサンジャヤも最勝の義に過ぎず特に神話も無きことから称号といえり。

また獨健を第二子とせるからジャネーシャとサンジャヤは同体とされるべし。しかしこの獨健も獨りの勇健の義であるならばナラクーバラの誤訳に過ぎないといえり。
ナラクーバラ葦の長く美しきの義なれどナラを人の中の人の義にクーバラをクベーラの義に誤訳すると獨健と訳しうるなり。常見や甘露といった子については根拠不詳なり。ナタ、鳩跋羅に至ってはナラクーバラを分割せたるなり。このうちナタは中国神話のナタ太子とされたり。
また三男にマユラージャMayurajaあると謂われるものあり。マユMayuこれキンナラKimnaraおよび山羊や野干の頭もてる半獣半人の妖怪の類にしてカルマカラKarmakara作業夫として神仏の雑役につかえたるなり。マユラージャこれも多聞天王の異称の一と知るべし。

ジャネーシャやサンジャヤが多聞天王の異称であり獨健がナラクーバラの誤訳であるなら多聞天王より天兵として派遣され門の護り神となった兜跋毘沙門天は長子ナラクーバラ美葦夜叉であると知られるべし。兄弟のマニグリーヴァ宝珠瓔珞尊これ首に如意宝珠を着けたるの義にして龍頭であることから龍王なるべし。

またパーンチカの配偶者ハーリーティーこれタクシャカTaksaka龍王の配偶者とされることあり。しかしこれタクシャカのガンダーラ王であったが故の誤解なり。また八大夜叉のうちヴィシャーラカVisalakaがタクシャカの父とみられることからの誤りなり。
パーンチカとハーリティーを婚約せたるは八大夜叉のうちのパーンチャーラガンダPancalagandaとシャタギリSatagiriなり。パーンチカ五部族主とハーリーティーまたナンダーNandaまたウッタラーUttaraはガンダーラの守護神なり。またヴィシャーラカの父はドゥリタラーシュトラDhrtarastra持国天王また護国天王なりといわれたり。

愛染明王はヴァジラサットヴァVajrasattvaの姿とりたる普賢菩薩がパーンチカの姿を借りて顕現したるものと知るべし。そしてアジアにおいてマハーカーラ、ラーガラージャ、タッキラージャ、グンポ、大将軍、雄雌夜叉、大黒天そして伽藍神などとして飾られたるは全てガンダーラの祟り神にして守護神、宝蔵神、福神であるパーンチカの変相であると知るべし。
愛染明王の真言、オーン・タッキ・フーン・ジャハ・フーン・ヴァン・ホーホは夜叉の共通真言であることからも愛染明王、タッキラージャこれ夜叉神王たること明らかなり。

愛染明王に三面あり。中にパーンチカ面、左にハーリーティー面、右にピンガラPingala面これなり。ハーリーティーは百山夜叉シャタギリの娘にしてパーンチカの配偶者なり。百山夜叉、古くに七岳夜叉といわれたるがSataとSaptaの取り違えなれば誤りなり。
このシャタギリはチベットにおいてはシャンルンつまり外戚と呼ばれ金剛伏魔将軍として崇拝されり。金剛伏魔将軍の脇侍これ多聞天王、パーンチカの異称としてのマハーカーラ、太元帥明王アータヴァカ、宝賢大将マニバァドラであることからもシャンルンこれシャタギリなること明らかなるべし。

八大夜叉これパーンチャーラガンダ五州頭領、パーンチカ五部族主、マニバァドラ、プールナバァドラ、ハイマヴァタHaimavata寒山住また雪山住夜叉、シャタギリ百山夜叉、ヴィシャーラカは広大な範囲に力を及ばせる者の義つまり大領主夜叉、アータヴァカAtavaka林住夜叉なり。パーンチャーラガンダのガンダは此処より分かれたるの義なり。五つの頭に分かれたる所と訳せり。これ五頭のある龍王の義なり。

青面金剛と呼ばれる尊格これあり。中国で生まれた尊格といわれども多聞天王の眷族にして寒山に住めるとあればこれ寒さを持てるの義のある雪山住夜叉ハイマヴァタの如し。
故事に曰く釈尊の前世に雪山童子あり。雪山童子これ雪山ヒマラヤにて修行せるに羅刹現れ法を説けり。雪山童子の続けて法を問えば羅刹これ人の肉を食わせるなら教えると言いたり。雪山童子の法を得るに命惜しまずと言えば羅刹説きたり。雪山童子の歓喜して法を木石に書き記したれば羅刹にこの身与えんと山から投身せり。この時たちまち羅刹またインドラ神王の飛び出でて雪山童子を受け止めたとあり。

この時に雪山童子を受け止めたるはインドラ神王の説あれど青面金剛の真言これオーン・ディーヴァヤークシャ・バンダー・バンダー・ハハハハハ・スヴァーハーなれば、生起せよ夜叉神よ縛れ縛れ呵呵大笑善くあれかしの義なりてインドラ神王にあらず。またその形像も夜叉のそれなり。なればこれ寒さ持てるの義にして雪山に住みたる夜叉である雪山住夜叉ハイマヴァタHaimavataなり。

青面金剛これ左手にショケラと伝わる女神吊し上げたり。ショケラに四義あり。第一義に尸虫なり。虫これ這う物の義にして古語にてはケラなり。もってシケラなり。尸虫に上尸、中尸、下尸の三種あればこれ三尸と謂うべし。第二義に癪の虫と同一視されシャクと謂われたり。もってシャクケラなり。第三義に三尸に青古、白姑、血尸のうち上尸である青古のセイコまたショウコなり。もってショウコケラなり。第四義にケラの這う物の義をとりてシャクトリなり。もってシャクトリケラなり。これら三尸信仰のショケラと明王信仰におけるシャンカラを同体とするなり。

青面金剛Haimavataこれ左手にショケラと伝わる女神吊し上げたり。ショケラこれ商羯羅しょうから女シャンカリーSankariに他ならず。足元に踏まれたるはシャンカラSankaraつまりシヴァなり。シャンカラは楽作、繁栄させたる、福利をもたらすの義なり。シャンカリーつまりパールヴァティーParvatiを特に吊し上げたるはパールヴァティーの義これ山の女性形にしてハイマヴァタ夜叉とパールヴァティの父ヒマヴァットHimavat天を重ねたるなり。もってシャクティ性力崇拝を降伏せしめたるべし。本来は両足に青古と血尸の二体が踏まれたるべし。血尸これナンディンNandinと同一視されたり。
つまり青面金剛これ道教や陰陽道と習合されてある部分あれど本質は仏教の夜叉としてあり。

深沙大王と呼ばれる尊格これあり。深沙大王これ一説に多聞天王の三男マユラージャあり。しかれども多聞天王の子これナラクーバラとマニグリーヴァにしてマユラージャ多聞天王の異称の一なればあたらず。多聞天王の眷族にしてその次世代なれば東方の守護にしてキンナラの主である持国天王の息子ヴィシャーラカこれあり。

マユこれキンナラを含む半人半獣の妖怪なれば深沙大王これ多聞天王の三男マユラージャとの説はマユの主である東方守護持国天王の息子であると理解するべし。もって深沙大王はヴィシャーラカVisalakaがありうべし。アングリマーラAngulimala指瓔珞であるとの説はアングリマーラこれ仏弟子の一なれば天部にあらざれば付会なり。また一部に蛇王の説また水神の説あれど沙は砂の義にして水の義にあらずば誤りなり。深沙大王Visalakaあらわれたるは河にあらず沙漠の流沙なればこれ水の義まったく無し。

ハーリーティーもまた子供の命を奪う疫病の祟り神にして子宝を与える福神なり。このハーリーティーに有名なる三子あり。スカンダァクシャ、ピンガラ、プリヤンカラPriyankaraなり。スカンダァクシャSkandhaksaこれ十大夜叉の肩目夜叉これなり。しかれどもスカンダァを肩と訳せるは古来の誤りなり。スカンダァクシャこれSkandhaの義はかたまりなり。

樹木に瘤が生じそこから枝の生えたるをスカンダァと謂うなり。またそこから四肢の付け根これスカンダァなり。幹より枝の生えたれば脇できたり、よって陰の義あり。また文章の一群をスカンダァと謂うなり。これ全て要素あつまりてかたまれりの義なれば蘊なり。蘊魔これスカンダァマーラと謂うべし。スカンダァは集と訳されるべし。

スカンダァクシャは集眼の義にして、この夜叉の姿を金剛夜叉菩薩また金剛牙菩薩が借りて金剛夜叉明王となるべし。金剛夜叉明王の目のこれ多く集まれるはこの義の故なり。

ピンガラは多聞天王の副将にして広目天王ヴィルーパークシャVirupaksaと共に不空羂索観音アモーガァパーシャAmoghapasaを守護するなり。寺の仁王はグヒヤカーディパティGuhyakadhipatiつまり密隠夜叉の主である多聞天王と那羅延堅固ナーラーヤナNarayanaつまりプルシャの子、原人原型に拠り生まれたると呼ばれるヴィシュヌ天が護りしが、四方あるときは東を持国天王と増長天王ヴィルーダァカVirudhaka、南を広目天王と赤眼神王、西を宝賢神王と満賢神王、北を執金剛夜叉と呼ばれる密隠神王と多聞天王がこれを護れり。

赤眼神王これピンガラなり。ピンガラは丹にして黄褐色から赤褐色までを含む鉱物の色なり。シヴァやガネーシャも黄褐色また赤褐色の眼を有すことからピンガラと呼ばれたり。ピンガラとプリヤンカラを同体とする説あれどピンガラは多聞天王の副将にして成人なれば赤子たるプリヤンカラと同ずべからず。
プリヤンカラPriyankaraも黄褐色か赤褐色の眼を持つものと理解すべし。プリヤンカラは愛敬を生み出すものの義なり。童子神なり。また愛子天とも古来よばれたり。愛敬天、愛神なり。

三面大黒天また三面弁才天と呼ばれるものあり。しかしこれシヴァの破壊相であるマハーカーラにあらずパーンチカなり。また多聞天王面とよばれるものこれ多聞天王にあらず副将ピンガラなり。弁才天面と呼ばれるものサラスヴァティーにあらずこれハーリーティーなり。これがマハーラーガタッキラージャなり。

爆声示現明王 Ucchusma Mahabala

爆声示現明王これウッチュシュマ烏枢沙摩明王の訳なり。ウッチュシュマUcchusmaこれ、その爆声を示し現るの義なり。アグニAgniの一名にこれあり。このアグニとシヴァの二人の父をもてるがスカンダなり。Mahabalaは大力の義なり。

爆声示現明王これ金剛業菩薩の所変なり。金剛業菩薩これ釈尊に三道宝階を供養したる一切業ヴィシュヴァカルマンVisvakarmanまたトヴァシュトリTvastrの仏道に帰依したる姿なり。この金剛業菩薩の如意宝珠善神王の姿を借りたるが爆声示現明王なり。

爆声示現明王に三面あり。中に如意宝珠善神王面、左に集眼夜叉面、右に霆撃天面なり。如意宝珠善神王面の義は劫火によって所願を清めて天に送り届けるの義なり。また汚穢を焼き清め清浄なものに調理するの義なり。

左の集眼夜叉面の示せるは噬呑なり。噬呑は噛み砕き呑み尽くすの義なり。ジャンバァラなり。金剛夜叉菩薩また夜叉の義である金剛牙菩薩この集眼夜叉の相を借りるため古来ウッチュシュマとヴァジラヤクシャ同体なりと謂われり。これ火の下がらず全てを侵略する様なり。このジャンバァラ面あるためウッチュシュマときにウッチュシュマジャンバァラといわれたり。

右の霆撃天とはスカンダSkandaの訳なり。スカンダこれ跳躍して襲い撃つの義なり。Skandhaと混同して陰や肩の義に訳すは古来の誤りなり。霆撃これ瞬時に襲い撃つの義なり。またこの霆ディエンの義これヴァジラの一瞬にしてまっすぐに跳躍の義にして、その音のまっすぐに響き渡るの義なり。電が屈曲して落ちるのに対して雷霆が突然まっすぐに打ち付ける様であり、その音のまっすぐなる様なり。スカンダはガネーシャと共にシヴァの子、兄弟にして二大将軍なりて天界最強の者なり。このスカンダ面あるによってウッチュシュマまたヴァジラクマーラVajrakumaraと呼ばれり。

またこのスカンダときに護法魔王尊と呼ばれたり。護法はスカンダの仏法守護神であることからの護法尊の義なり。魔王はシヴァの大将軍にして天界最強の義にして、また災難や病気また子供に祟りなす祟り神の義なり。時にブラフマの意であるサナトクマーラとされることあれど、これスカンダの異称であるサナトクマーラSanatkumaraと混同したる誤りなり。護法魔王尊の義これブラフマの純粋な意そのものである四人の幼児の一なるサナトクマーラの義に全くあわず。また仏教に関係無くば後世の付会また新興宗教の悪影響に過ぎず。背教なり。文殊菩薩もクマーラと呼ばれることあればよく区別すべし。

ウッチュシュマはシヴァとウマーが不動明王に逆らいし時、不動明王によって戦争に特化してうみだされたる明王なれば最強の戦神といえり。スカンダが瞬時に突撃し打ち倒しスカンダァクシャが破壊し尽しマニバァドラが焼き尽くし清浄にするなり。マハーカーラとマハーカーリーを踏むべし。

青黒笏杖明王 Niladanda Herukavajra Vajrakala Trailokyaksepa Saptaksara Vajradaka

青黒笏杖明王これ古い訳にいう青棒明王なり。サファイアの王笏を持つ者の義なり。王権の存在を示すなり。青黒笏杖明王これヘールカヴァジラなり。HerukaこれHeは呼び声の義なり。Ruこれ咆哮なり。Kaこれ誰かの義なり。つまりヘールカ従者僕御の義なりてガネーシャの異称これなり。
青黒笏杖明王ニーラダンダの名前これヘールカなれば同じ象頭のニーラアスラを意識してつけられたるか。

青黒笏杖明王に三面あり。中にガネーシャ面、右にサラスヴァティー面、左にヴァジラヴァーラーヒー面これなり。また頭頂に鼠、猿、白牛、野干の四面を出すべし。サラスヴァティーはこれブッディBuddhi仏智を示すなり。してサラスヴァティーこれヨーギニーの首領なり。ヴァジラヴァーラーヒーはシッディSiddhi成就を示すなり。してヴァジラヴァーラーヒーこれダーキニーの首領なり。

青黒笏杖明王これヘールカなればガネーシャなり。ガネーシャこれサプタマータリカーの首領なり。もってサプタマータリカーを踏むべし。また率いるべし。

ダーキニーDakiniこれサンスクリットにおいてはその意味の不明瞭なるが、これ南東インド語なればダーキニー巫女の義なり。また男女合わせて巫覡というべし。ダーキニーこれ本来は楽器を打ち鳴らして舞踊り、そのことによりてさまざまな霊や神を憑依せしめて予言や魔法、空中飛行などを行う霊媒師や魔術師の類なり。

摩多羅神の時にこれダーキニーと誤解されたるは摩多羅神の鼓たたきて踊ればなり。摩多羅神の男ならばダーカDakaというべし。最後期密教にダーカアルナヴァチャクラDakarnavacakraなる尊格これあり。法海輪皇と訳されるべし。

ヴァジラヴァーラーヒーVajravarahiまたこれヴィシュヌのヴァーラーハVarahaに変化したるときラクシュミーの変化したる相なれば秘密の義におけるラクシュミーなり。これをリッディRddhi栄光というべし。ときにヴァジラヴァイローチャニーと呼ばれたり。ヴァジラヴァーラーヒーこれ金剛亥猪仏母の義なれば時に猪面を出せり。ガネーシャの配偶者の猪面なるはこの故なり。金剛亥猪仏母の脇侍たるときはガネーシャの猛る陽物を握るなり。なお古い訳に金剛亥母とあることありしが亥は呪儀の犠牲の義なれば亥のみでは義の伝わり難し。

このヴァジラヴァーラーヒーに五相あり。一にヴァジラヴァイローチャニーとして大日如来の化身、二にラクシュミー、三にヴァジラヴァーラーヒー、四にジュニャーナダーキニーJnanadakini、五に金剛界自在母ヴァジラダートゥイーシュヴァリーVajradhatuisvariこれなり。

世に三面聖天また三面荼枳尼天と呼ばれるものあり。またパーンチカ大黒天と共に摩多羅神と呼ばれる祟り神あり。これヴァジラヘールカ、ニーラダンダ、青黒笏杖明王に他ならず。また赤ジャンバァラとも呼ばれり。阿弥陀仏の眷族なり。

ヘールカこれ抱く明妃によりて教王として名称の変わるなり。
Nairatmyaナイラートミヤー無我女、アートマン無き女の義、また時にVajravarahiおよびVajrasrnkhalaヴァジラシュリンカァラー金剛鎖とHevajraヘーヴァジラ呼金剛、四魔を踏む。
Jnanadakiniジュニャーナダーキニー智巫とCatuspithaチャトゥシュピータァ四つの座また一名にYogambaraヨーガアンバラ如理また軛を纏うの義、獅子座に座す。
VajravarahiヴァジラヴァーラーヒーとCakrasamvaraチャクラサンヴァラ輪戒、バァイラヴァとカーララートリー終末の暗黒を踏む。
Citrasenaチトラセーナー輝く槍また軍威を顕すの義、これ魔軍を破る大将軍の軍権の所在を示し軍を導く権標また聖標を持てる義とBuddhakapalaブッダァカパーラ仏頭蓋、立ち踊る。
Buddahadakiniブッダァダーキニー仏巫とMahamayaマハーマーヤー大いなる幻また現象の義、立ち踊る。
Visvamataヴィシュヴァマーター全宇宙母とKalacakraカーラチャクラ時輪、アナンガとルドラを踏む。
Sparsavajraスパルシャヴァジラ触金剛とGuhyasamajaグヒヤサマージャ秘密集会、金剛座に座す。

また一説にヴァジラカーラ金剛黒、トライローキャクシェーパ三界超越、サプタークシャラ七字、ヴァジラダーカ金剛覡の異名これあり。

馬頭明王 Hayagriva Padmantaka Paramasva Vajrosnisa

馬頭明王これハヤグリーヴァHayagrivaなり。ハヤグリーヴァこれブラフマより聖典を盗みしダイティヤDitya悪魔の姿なり。ヴィシュヌの化身ハヤシラスHayasirasまたハヤシールシャHayasirsaと同ずべからず。しかれどもヴィシュヌの悪魔倒したれば自身がこの姿と名を用いたるなり。また日輪なり。シラスまたシールシャこれ頭の義なり。ハヤグリーヴァこれ世界の終末に世界を焼き滅ぼしたるべし。

馬頭明王の異称にパドマアンタカPadmantakaあり。パドマこれヴィシュヌの異称にして煩悩魔ヴィシュヌを断滅せるなり。もって再生輪廻の妄想を断滅する義なり。パドマアンタカのパドマこれヴィシュヌとラクシュミーの異称としてあれど、またナーガの一にも名あり。

馬頭明王の直接の起源と思われるはこれヴェーダにあるパイドヴァPaidvaなる馬神なり。パイドヴァこれヴェーダにあるペードゥPedu王の毒蛇に苦しめられたればインドラよりつかわされたるアシュヴィンAsvinの与えたる毒蛇を殺せる神馬なり。パイドヴァこれ毒蛇を殺す神馬なれば馬頭明王もこれナーガNagaを調伏する尊格とされたれば、その起源おのずと明白なり。
パイドヴァはペードゥに属したる馬の義なり。ペードゥこれおそらくPadパドの強調されたるパードの訛りにして足、足の歩み、足跡の義なり。合わせてパイドヴァ強く踏むの義にして蛇を踏み殺す馬の義か。

またおそらく馬頭明王の護法尊の起源としてはヴャーラVyalaまたエータシャEtasaまたアジアに多く見られる馬の首を村落の境界や道の辻に飾り、魔除けとしたる習俗にあると思えり。
ヴャーラこれ第一義に暴獣、第二義に狂象、第三義に獅子、第四義に豹、第五義に蛇、つまり猛獣なり。時に顔は象、頭は獅子、体は豹または馬、下半身は蛇または魚、また時に人面や犬面であり、特にAsvavyalaと呼ばれたる馬のヴャーラは寺院を守る聖獣として装飾とされたれば、これが護法尊としての馬頭明王の由来なるか。
同様にエータシャまた戦馬や騎馬の太陽寺院などに置かれたるも馬の前衛なるを意味すると思われり。エータシャこれ太陽神の車を牽く輝ける斑馬の義なり。

さらに馬頭明王の真言をみるにオーン・アムリトードバーヴァ・ウー・フーン・パット・スヴァーハーこれ生起せよ甘露より生じたる猛る憤る爆ぜる善くあれかしなればUccaihsravasウッチャイヒシュラヴァス嘶号名声とも同一視されてあるなり。ウッチャイヒシュラヴァスこれ乳海撹拌からアムリタと共に生じたる神馬王なり。なれば馬頭明王とは悪魔の化身、神の化身、馬神、神の馬、太陽の馬、甘露の馬など不動明王と同じく複数の強力な尊格の要素を直接の性格を有す尊格を中心に纏め上げたる尊格といえり。

また一説にヴァジローシュニーシャVajrosnisaこれ金剛仏頂、またパラマアシュヴァParamasvaこれ最高馬の異名あり。

ハヤグリーヴァこれ八面を出すべし。中にハヤグリーヴァ面、右にナーサティアNasatya面、左にダスラDasra面とすべし。全て馬頭なり。また頭頂の中に青黒い太子人面、右に獅子面、左に赤牛面、さらに右に猪面、さらに左にガルダ面を出すべし。赤牛はウシャスUsas、猪はマーリーチーと知るべし。ヴァジラヴァイローチャニーなり。全てヴィシュヌの化身を借りたるもの太陽の周縁者と知るべし。

馬頭明王これ本来は馬頭尊と呼ばれ不動尊と共に明王とは呼ばれず二尊にて菩薩如来を守護するなり。この役目は愛染明王と降三世明王と相互に変換しうることあれば日本においては愛染明王と不動明王の二尊の組み合わせが主流となれり。馬頭と愛染は日輪、不動と降三世明王は月輪なり。

またスサノオこれ馬頭尊なり。スサノオこれ大神の鼻より生まれたればナーサティアなり。天上と河海と地下の境界に立つなり。天下地上の主なり。スサノオこれスサまたスカは海港なるべし。港の男、港の王これスサノオなり。
観自在菩薩の楽土にポータラカPotalakaあるべし。ポータラカこれ海港なるべし。その主これ観自在菩薩なり。観自在菩薩の教令輪身これ馬頭尊なれば馬頭尊とスサノオ同体なり。

観自在菩薩これAvalokitesvaraアヴァローキテーシュヴァラなり。Ava相対的な下に非ず離れたる下または下りたる。Lokita見るの義にして過去分詞で見られたるなり。Isvara自在者にして主なり。
ローキタこれ過去分詞なれば観るに非ずして既に、また他者から見られたるなり。またイーシュヴァラこれ単独で自在には非ずして自在者の義にして主の義なり。これにアヴァを接頭語としたれば下を観ること自在の訳は劣義なり。下りて見られたる主の義これ勝義なり。

アヴァローキタの義これ臨なり。臨の義これ第一義に高きから下方を見たる、見下ろす。第二義に照らしたる。第三義に治めたる、あたる。第四義にそこに行く、まみえる。第五義に見取る、見定むる。臨の義これ監臨なり。監臨これ上天に在る帝の下界を見下ろして、また下界に下りて見定めて保ち治めるをいうなり。
イーシュヴァラこれ帝なり。帝の義これ第一義に上天の天主。第二義に神を締めたる神の王。第三義に神の如き人王。第四義に本来の意味における諦めるにして物事をあきらかにし定めたるの義なり。つまりアヴァローキテーシュヴァラこれ監臨帝菩薩もしくは臨帝菩薩なり。
またAryavalokitesvaraアールヤーヴァローキテーシュヴァラの場合これ聖降臨主なり。

アヴァローキテーシュヴァラこれ古来より観自在菩薩と訳されど劣った訳にしてサンスクリットに則したればこれ下りて見られたる主、眼前に在りて側にて見守りたる主、臨在せる主の義なり。下界に下りて世を見た現前せる至高者、降臨せる主の義なり。ゾロアスター教における救世主の義に近きか。事実、観自在菩薩の古くはまさに救世主や地上に降りたる神の如く崇拝されたり。降臨せる救世主の義を理解せざれば古代のアヴァローキテーシュヴァラにたいする熱狂的な信仰と帰依は理解なせざるべし。

イーシュヴァラはスヴァラ音声であるとの解釈あれどAvalokita下界に臨て人々にまみえる見られたる、現前せる、また目による観察や眼光によって露わにするの義なればあたらず。観自在菩薩これローケーシュヴァラとも称されたればスヴァラこれ音声には非ずして、おそらくはペルシャ・アーリアンの訛りにしてIイーを発音せざるを、そのまま表記せしか。

されど、ごく初期の表記がアヴァローキテースヴァラであれば、その真言Om Alolika Svaha生起せよ子守歌の囀りよ、善くあれかし、にして仏の子を安心させる声を聞かせてください、の意味にして大安立得の義なり。されば所謂、大勢至菩薩とは声聞の主であり聖声聞菩薩であり、アヴァローキテースヴァラの変化なり。総じて観自在菩薩とは人々に様々な姿を通じて仏法を表す者の義なり。
有情が仏法を説いたとき、神々や師や主君から恩寵を授かったとき、善男善女、父母、友や恋人から幸福を与えられたとき、恩恵を受けたとき、それを恵みたる有情は、その瞬間これ観自在菩薩の顕現なのである。甚深なり。

ハヤグリーヴァこれダイティヤなり。ダイティヤこれ有限に属するの義なり。無限定アディティAditiたるアマテラスを有限であり境界に立つスサノオが限定せるに人間界の生じたるべし。この義においてスサノオのダーカ祭祀主なるべし。まさに馬頭尊ダーカパラマアシュヴァと呼ばれたるべし。最勝馬の義なり。天皇の祭祀主たるはこの義なり。

ダーカアルナヴァチャクラという尊格あるべし。祭祀主の大法海の輪の義なり。
アマテラスこれ天上と天河天海と昼の主なり。無限定なり。ツクヨミこれ地下と冥河冥海と夜の主なり。永遠の変化なり。時なり。後裔はヤクシャYaksaなり。ヴァスダーラーはその後裔なり。

スサノオこれよく牛頭天王と同一視されど後世の付会にして甚だしき誤りなり。由来故事まったく一致せず。そもそも牛頭天王これ仏教またヴェーダ・プラーナ文献に存在しない何の関係も無き神格なり。祇園精舎の守護神であるとかインドラの化身などと謂われどもこれ全て後世の付会にして誤りにして全く存在せず。
あるいはGosirsadevarajaまたGosirsa、GosirasあるいはGavampatiガヴァーンパティあるいはGomayagrivaであるとされたれども、いずれも付会にすぎず誤りなり。ゴーマヤグリーヴァに至りてはGomayaこれ牛糞の義にしてGrivaこれ首の義なれば牛糞首あるいは牛糞を首に着けたるの義にして意味不明なり。これ明らかに後から全く存在しない尊格の名前をサンスクリットを理解しないまま復元しようとして誤りたるなり。

されど牛頭天王これ武塔神と同体すれば、サーガラSagaraつまり大海より生まれたる女の配偶者となり北方で吉祥天と住めるとあれば毘沙門天王と同一視すること可能なり。この女のサーガラより生まれたる頗梨采女これ三女とあれば善女龍王また清瀧権現と同体なり。無熱悩池に住む龍王とあればその正体はアナヴァタプタAnavataptaなり。アナヴァタプタこれ清涼の義なれば清瀧権現の名これ清涼の義と龍王の義を重ねたるなり。

また経にサーガラの娘の法を聴くにたちまち成仏したとあれば、サーガラより生まれたる成仏決定したる女シュリーマニラトナサンバーヴァ仏Srimaniratnasambhavaこれシュリーなれば、やはり毘沙門天王の配偶者なり。祟り神として顕れたる毘沙門天王を牛頭天王また薬宝賢明王Bhaisajyaratnabhadraと呼びたるといえり。

なれば巨旦は金神シヴァにして蘇民はヒマヴァットと同一視せるなり。本来はシヴァとヴァイシュラヴァナは友人なれどヴァイシュラヴァナの仏教に帰依したるに明王の姿をもってシヴァと争いしか。してまたグヒヤカーディパティGuhyakadhipatiとして精舎の守護者となりしか。
シヴァの神殿これナンディンとマハーカーラの守ることあり。なれば牛頭天王これナンディンに、やはりマハーカーラとも呼ばれるパーンチカこれマハーカーラになぞらえたるか。

ガルダGarudaはこれ呑滅の義なり。これ太陽光の大河を干上がらせたるを大鳥の龍蛇を呑み滅ぼすに見立てし尊なり。
またガルダのガルーこれ貪り呑み込むの義と共に賛歌や教えの義あり。この場合のガルダは賛歌を宣教したる義なり。
ガルダこれ妙栄徳菩薩の化身としてナーガアンタカまたヴァジラガルダVajragarudaまたガジャクールマアシンGajakurmasinとして単独で忿怒尊なることあり。ガジャはこれ象にしてインドラの象徴、クールマは宇宙亀にしてヴィシュヌの象徴それを屠り食すの義なり。

ガルダこれ全身にこれ八大龍王を纏うべし。左手にムチリンダMucilinda軟樫、右手にアパラーラApalala非黍を腕輪とせり。タクシャカTaksaka樵を聖紐として纏いたり。カルコータカKarkotaka砂糖黍を帯としシェーシャSesa残渣は瓔珞にされたり。パドマPadma蓮とマハーパドマMahapadma大蓮は耳環にされシャンカチュダSankacuda愚疑を頭巾とせり。

ガルダこれインドラと闘いしがインドラこれヴァジラ投げつけたるもガルダの翼の傷一つつけず撥ねかえしてインドラを驚嘆させたなる神話あり。またガルダこれ大日如来や文殊菩薩またブラフマンや諸天部の伝令として言葉を仲介したれば文殊と法論をしても負けずという故事あり。アヴェスターグにいう聖霊フラワシの如くイデアを地上に伝えたり。

ナーサティヤNasatyaはナサもしくはナーサーNasaまたナスNasこれ鼻の義なり。アティヤAtyaこれ馬の義なり。また形容詞として疾走なり。つまりナーサティヤ第一義に馬面、第二義に鼻の走れるの義にして先導するなり。古来より鼻は物の始まり、また先行するの義なればナーサティヤ先導者の義なり。これ日の出なり。また明けの明星の光線なり。また親切にして賢明さを与え智識を開く光明なり。古来より悟りに導く光として崇められたり。人を先駆者に導くべし。

ダスラDasraはこれ奇蹟を行うの義なり。奇蹟的な治癒を与えるの義なり。日の入りなり。また宵の明星なり。医療や精神の安らぎ、また方向や魂の導きなり。双神あわせてアシュヴィンAsvinというべし。アシュヴィンこれ第一義に馬主、第二義に馬師、第三義に騎士なり。世界終末期の救世主カルキKalkiなり。ハヤグリーヴァ正面には無量光仏の化仏を出すべし。

ヴァダバームカァローケーシュヴァラVadabamukha牝馬口観自在菩薩これあり。北極の海底で地獄の入り口となりし変化菩薩なり。この菩薩、地獄の業火が溢れると宇宙が滅びるため海底で大量の海水を飲み業火を抑えたるべし。大量の海水は甘露水となりて口から吐き出されると謂はれたり。これもまた馬頭尊にして馬頭観音と謂われるもの明王なれば、この尊こそ馬頭観音なるべし。

八幡神あるべし。これ渡来神にして弓馬の武神。阿弥陀仏の眷族にして日輪なればこれ忿怒観自在大力持馬頭明王の変化身なるべし。八幡これ古来の軍制なり。八面六臂を出し弓と矢、剣と輪、槍と幢幡を持すべし。仏頂また額に日輪を出すべし。
幢幡これ幢をドゥヴァジャDhvaja、幡これ吹き流しにしてパターカPatakaなるべし。軍旗の義にして八幡の本来ヤハタなるはこの義なり。もって魔軍を打ち破る軍勢を率いる大将軍の義なり。

脇侍の比売大神これヴァジラヴァーラーヒーなり。時に猪頭を出すダーキニーなり。ダーキニーこれ巫女の義にしてヴァジラヴァーラーヒーその頭なり。ヴァジラヴァーラーヒーこれ秘密の義においてラクシュミーなれば配偶尊はヴィシュヌなり。もって日の巫女なり。このラクシュミー海中から生じたる蓮華上に生まれたるべし。

明妃の神功皇后とされるものこれマーリーチーなり。マーリーチーこれ陽焔の義にして馬頭明王の明妃なり。故に八幡神の明妃なり。鎧まといたる女の軍神なり。時に猪頭を出せり。マーリーチーもまた秘密の義におけるラクシュミーなり。

ヴァジラヴァーラーヒーとマーリーチーこれ大日如来の化身なれば共通真言オーン・ヴァジラヴァイローチャニーイエー・スヴァーハーなるべし。生起せよ金剛大日であるものよ善かれしの義なり。

大輪明王 Mahacakra Mahacakravajra Usnisacakravartin

大輪明王これ弥勒菩薩の所変なり。弥勒菩薩の円満具足善神王の姿を借りれるが大輪明王なり。大輪と円満具足は転法輪と曼荼羅の両義あり。弥勒菩薩のこの世を完成させるをもって大輪となすべし。異称に大輪金剛また仏頂転輪あるべし。

弥勒菩薩これマイトレーヤMaitreyaなり。マイトレーヤこれ正しくは情け深きの義なれば慈祥、慈愍、慈仁と訳されるべし。もっとも義に近きは慈仁なり。仁これ相親しむ、慈恵、憐憫、思いやり、情け深さ、徳の最上なるものの義なればこれマイトレーヤなり。慈から生まれたると訳して慈氏とされることあれどこれマイトレーヤの義にあらず。これ混血種の階級また氏姓の一としてもまたあれどマイトレーヤの義にあらずば誤りなり。釈尊を釈氏仏とは言わざり。マイトレーヤの義これ慈仁なれば義をとりて慈仁菩薩と訳されたるべし。

大勢至菩薩と呼ばれたる尊格あれど詳細の明らかならず。チベットでは金剛手菩薩と同体とされしが誤りなり。これ正しくは大安立得と訳されるべし。勢力と訳すは古来の誤りもしくは第二義なり。して古来より阿弥陀仏の脇侍として形像されたる水瓶を持てる尊格は慈仁菩薩にしてマハースターマプラープタMahasthamapraptaのスターマはスタンド位置や場所、定立の義なれば大いなる安心に至らしめる仏塔を定立せる慈仁菩薩に他ならず。金剛名を持輪金剛、転輪金剛、持光金剛、空生金剛というべし。

弥勒菩薩に脇侍あるべし。古来より四波羅蜜それなり。これ四波羅蜜とあれど秘密の義においては金剛波羅蜜シュリーSri、法波羅蜜ターラーTara、宝波羅蜜これパールヴァティーの純粋浄化されたるものとしてのガウリーGauri、業波羅蜜カァヴァジリーニーKhavajriniつまり虚空金剛としてのサラスヴァティーと知るべし。これ金剛の弥勒なり。真実功徳の弥勒なり。

また内功徳の弥勒あり。修行の弥勒においては大妙相菩薩と法苑林菩薩を脇侍とすべし。説法する弥勒においては無着菩薩と世親菩薩を脇侍とすべし。

外功徳の弥勒あり。世間の義においては右に持世仏母と宝賢大将の夫婦、左に満賢大将と密隠神王を脇侍とすべし。地に無量の宝を隠す夜叉神なり。持世仏母と肥満した僧形の満賢大将は座すべし。宝賢大将は槍をふるい密隠神王は長杵をふるい睨み立つべし。

また四波羅蜜と並んで古来よりの弥勒の脇侍の形式これあり。これヴァスダーラーと地神としてのアパラアジターを脇侍とするものなり。アパラアジター無能勝明妃に二義あり。第一義に地神アパラアジターにして弥勒菩薩の明妃なり。第二義にアパラアジタルドラの配偶尊であるドゥルガーの変化身アパラアジターなり。この場合は地神アパラアジターにして弥勒菩薩の明妃なり。弥勒菩薩の地また世を受け継ぐの義なり。これ秘密功徳の弥勒あり。

秘密功徳の弥勒においてアパラアジター加えたるときはカーシャパKasyapa尊を加えるべし。カーシャパこれ仏教第二代なり。カーシャパこれカシャパに属する、またカシャパの後裔の義なれば玄亀の義なり。星宿である玄武と同ずべからず。
古くからカーシャパをカーシュKas光輝とヤYa動詞とパPa飲むに分解してカーシュヤパ飲光と訳したれども誤りなり。またカッチャパなどはただの亀の義にして関係無し。

カシャパこれブラフマの意により生じたる一切造物主なり。神話にはダクシャDaksaの娘とブラフマの意より生じたるカシャパの結婚によって宇宙一切が造られたとあり。宇宙亀なり。古来より聖仙と訳されたり。ブラフマの意つまり聖霊、また聖亀。神亀なり。してカシャパの形容詞として黒き歯を有するの義ありて万物の根源なれば玄亀と訳されたるべし。カーシャパとはこのカシャパの後裔、地また世を受け継ぐ者の義なり。

このカーシャパ尊これ弥勒下生の時に鶏足山の仏塔から現れ弥勒に衣鉢を託すと謂われたり。これ弥勒の地また世を受け継ぐ者なればなり。夜叉神に明妃のアパラアジターとカーシャパ尊を加えたる七尊弥勒は最勝の形式と知るべし。

大輪明王に三面あり。中にプールナバァドラPurnabhadra面、右にヴァスダーラーVasudhara持世仏母面、左にグヒヤカGuhyaka密隠神王面なり。
ヴァスダーラーこれプールナバァドラの母なり。世界と富、全て善きものを支える大地母神の義なり。グヒヤカは執金剛神なり。グヒヤカ護法神にして仏の密迹を知れり。また執金剛の初発菩提心の義あることから諸法の始まりを示し釈尊の開悟を証したるヴァスダーラーによって維持され弥勒菩薩によって円満具足されるを示すなり。

ヴァスダーラーこれ雨宝童子として表わせられることあり。ヴァスダーラーこれ財宝を雨らして世間を安んじ維持せるとあり。ヴァスは善また宝の義にしてダァラの女性形ダーラーには雨の義あり。またその真言オーン・ヴァスダーレー・スヴァーハー生起せよ善宝を雨降らす持世仏母よ善くあれかしなれば雨宝童子これヴァスダーラーなるべし。されど姿の童子なれば或いは雨宝陀羅尼の威力を尊格化したるか。

密隠神王に五義あり。第一義に洞窟に密かに隠れ住むの義なり。第二義に密かに隠すの義なり。第三義に隠形して密事をなす。第四義に隠れて密行をなす。第五義に隠されたる密意を知れるの五義なり。古い訳に仏の密迹を知れるからグヒヤカなりというは一面にしかあらず。
グフこれ洞窟に住める秘密なる、ヤカこれ何者か、つまりグヒヤカ秘密なる者の義にして持てる秘密は不壊の法なればヴァジラを持つべし。

このグヒヤカ同じ洞窟に隠れ住むの名を持つグハつまりスカンダと同体と見做されることあり。同様にVajrapaniヴァジラパーニやジャンバァラと同体また一群の夜叉神と見做されることあり。もってジャンバァラと弥勒菩薩と布袋が習合したものをスカンダと四天王が護る夜叉神群が形成されることあり。ジャンバァラこれ宝賢神王と満賢神王および多聞天王とも同体とされれば多聞天王と弥勒菩薩の共に仏塔を持ちたるに同体として布袋としたるか。

大輪明王これ夜叉神なれば肥満体にて座れる形像につくるべし。僧形でウシュニーシャは被らざるなり。大笑面を出し円満なるべし。けだし世界の終末においては忿怒破壊相を出せり、ルドラチャクリンRudracakrinと呼ばれるべし。咆哮する転輪の義なり。蛇を帯にするべし。また時に自身が龍頭を出すべし。十八臂を出すべし。
蘊魔の上に座すべし。右手に羚羊、左手に苦行者を吊るすべし。蘊魔はブラフマ、羚羊はブラーフマナBrahmana、苦行者はアートマンAtmanの義なり。三世実有法体恒有否定の義なり。
龍華樹、仏塔、吉祥果、水瓶、数珠、袋、三鈷杵と長杵これ独鈷杵の長大なるべし、また六輪を持すべし。

これ天輪、地輪、海輪なり。これに対応せる時輪、戒輪、法輪なり。これダァルマの三相を示せり。
時天輪は身密にして存在の理を秘密功徳を示せり。戒地輪は悟りへと導く方便を内功徳を示せり、意密なり。法海輪は般若波羅蜜そのものを真実功徳を示せり。これ口密なり。

身密は大日如来、仏への献身と如理を行とすべし。意密は不動如来アクショービヤAksobhya悪勝仏、遊行巡礼と彼岸行を行とすべし。口密は無量光如来、論と修学を行とすべし。して身口意を外に功徳するはアーチャーリヤサットヴァAcaryasattvaにして宝部尊なり。身口意を内に功徳するはサマーディサットヴァSamadhisattvaにして業部尊なり。

身密の大日如来はいわゆる大大日、法身大日とは異なるべし。法身はダァルマDharmaそのものにして臨照光と訳されるべし。
臨照の義は四方を遍く照らすの義なれば大日ときに四面につくりたり。光の第一義に光り輝く、第二義に光はじまりたる所、第三義に恵みと誉れ、第四義に大いなる。これマハーヴァイローチャナMahavairocanaの義なり。

このヴァイローチャナに多義あり。第一義に光に属したる。第二義にスーリヤの子。第三義にアグニの子。第四義にヴィシュヌの子。第五義にアスラヴィローチャナの子。この場合の義に合うのは光に属したるの義なり。釈尊の日種なるを示し、またこの如来の相を示したるなり。
Rocanaこれ光なり。Viこれ分離せる放射せる義なり。これにマハーをつけたれば全き光、絶対光、最高の光、光の源なり。

なればこれ真言宗に古義あり。また新義の別あれど、これどちらも正しかるべし。法身大日これダァルマなれば、その説法の途絶えざるなし。しかして六仏の教えこれ有情すべてに伝わるよう言葉におとすため側面ごとに伝えたなれば何れの道においても結局はダァルマに至れり。されど古くはダァルマであり目には見えざる法身仏とダァルマの一側面である大日如来の違いの明確ならずば解釈の相違うまれたるべし。しかれどもどちらも正しきなり。
六仏が法を説けば法身の説かざる無し。法身の法を説けば六仏の説かざる無し。一つのことに多くの側面ある義なり。

不死蛇環明王 Amrtakundalin Vighnantaka Vighnari Analarka

古来に謂う軍荼利明王なり。アムリタクンダリンAmrtakundalinなり。このアムリタはアこれ否定辞にしてムリタこれ死の義にして不死の義なれば甘露と訳すは古来の誤りなり。なればクンダリンは男性形にして過受分なれば蛇の巻かれたるが正しかるべし。さればアムリタ甘露の義にあらず蛇の不死性を顕せりこと明白なり。もしこれがアムリタクンダラであればそれ無限定神アディティーの耳環の義にして不死を与える甘露水を降らすものなり。

不死蛇環明王はシヴァの乞食僧の姿で修行せる相を虚空蔵菩薩が借りて出でたるなり。シヴァの異称にナーガクンダラこれあり。ヴァースキを瓔珞にするなり。
金剛蔵王菩薩の所変とせるは誤りなり。なれば金剛蔵王菩薩これ金剛壽、延命普賢菩薩またヴァジラサットヴァつまり普賢菩薩なればなり。また金剛蔵と呼ばれる尊格また文殊と虚空蔵ありて混同されることあるべし。また蔵王と呼ばれるに兜跋毘沙門天あり。

不死蛇環明王これ常に八大龍王を纏う不老不死の本尊と知るべし。左手にウトパラUtpala睡蓮、右手にエーラーパットラElapattra小豆蔲葉を腕輪とせり。サーガラsagara海洋を聖紐として纏いたり。アナヴァタプタAnavatapta無熱悩池を帯としヴァースキVasuki馬歯莞は瓔珞にされたり。ナンダNanda歓喜とウパナンダUpananda上歓喜は耳環にされマナスヴィンManasvin聡慧を頭巾とせり。

また一説にアナラアルカAnalarkaの異称あり。Analaこれ火の義なり。Arkaこれこの場合は日の義なり。もって日輪の義なり。

また寺社のガネーシャ祀りしときは必ず不死蛇環明王と十一面観自在エーカーダシャムカァEkadasamukhaそして無量光仏アミターバァAmitabhaを併せて祀るべし。なれば不死蛇環明王の別名これヴィグナアンタカVighnantakaまたヴィグナアリVighnariなればガネーシャを御するなり。

三界最勝明王 Trailokyavijaya Sumbharaja Vajrapatala Trailokyakartr

降三世明王なり。金剛手菩薩の所変なり。トライローキャは三界、ヴィジャヤは最勝の義なり。三界最勝明王の真言、オーン・シュンバァ・ニシュンバァ・ヴァジラ・フーン・パットなればダーナヴァDanavaシュンバァSumbhaの姿を金剛手菩薩の借りれる姿と知るべし。シュンバァの弟にニシュンバァあるべし。これヴァジラフーンカーラなれば同ずべからず。ヴァジラフーンカーラこれ金剛の忿怒の威厳をなすの義なれば金剛威嚇明王と知るべし。シュンバァおよびニシュンバァはこれ殺害と殺戮また破折や破砕の義なり。

従者にヴァジラアヌチャラVajranucaraあり金剛伴また金剛僕の義なり。アチャラナータの本来の性格に近い存在なればアチャラこれアヌチャラの発展せりしか。

三界最勝明王またシュンバァラージャSumbharajaこれ殺害王の義、またヴァジラパーターラVajrapatalaこれ金剛地獄の義、トライローキャカルトリTrailokyakartr三界創造などの異称あり。

歩擲明王 Padanaksipa Trivikrama

これパダナクシパPadanaksipaなり。また三界闊歩Trivikramaともいえり。なればその形像ヴィシュヌの化身ヴァーマナVamanaなり。ヴァーマナ少年僧の姿をとりてアスラバリBaliを油断せしめたり。もって歩いたるところ全て与えれるよう願えばバリ承諾せり。さればヴァーマナこれヴィシュヌの姿あらわしその歩み擲ち三歩にして三界を渡り終えバリを踏み潰せし故事に由来せり。

パダナクシパこれヴァーマナの姿を借りたるためその姿も同様なり。片手に木の傘を持ち、托鉢の椀もしくは壺を持つべし。姿は愛らしき少年僧なれども形相は激怒せり。
パダナクシパの後背に四十手を円のように出すべし。手にはアディティ、ダクシャ、バァガ、ディヤウス、ラートリー、ミトラ、アリヤマン、ダートリ、プーシャン、アンシャ、サヴィトリ、パルジャニャ、アラニャーニーの十三神を出すなり。脇侍としても現せられたり。

アディティAditiは無限定の義なり。日天なるは後世の誤りなり。日天はスーリヤSuryaなり。アディティは鶏また白雉を象徴とせる仏母なり。臨照光より直接に顕れたるなり。天照と同体にして無限仏母なり。妹にディティありと謂われるも有限の擬人化の如し。無限天。
ダクシャDaksaは力能、意力の義なり。無限定を意力をもって定義し存在とする者なり。神をつくる神つまり概念を創りだす創造主なり。創造は無限定なる存在を意志の力で切断して概念を生みだし、それをもって世界を構成するものなれば創造主とはあなた自身に他ならずの義なり。故にダクシャ仙人とも謂われたり。仏教において神仏とは勝義において擬人化されたダァラニと知るべし。意力天。
バァガBhagaは分与の義なり。存在を分かち与える者なり。故に女陰の義あり。幸運な賜物、恩恵を与えるなり。生産天。
ディヤウスDyausは昊天の義なり。光り輝く空なり。天則の維持を司る神にて長老なり。昊天。
ラートリーRatriは夜の義なり。暁の女神ウシャスの姉であり煌く星空を纏う美しい女神なり。安息の女神なり。終末の暗黒であるドゥルガーの化身カーララートリーKalaratriと同ずべからず。夜天。
ミトラMitraは友誼の義なり。原義はメートルつまり計測なり。自分が義を成せば相手も同じだけの義を返す。これミトラなり。古来本義の友人とは契約により助け合う義兄弟なり。盟友なり。もって契約と正義の神なり。しかしそれは天主ヴァルナVarunaの如く監視と処罰によるのではなく友情によるなり。友情なくなれば失われるものなればミトラ義と合意をまもることで友情の続くよう促す神なり。友誼天。
アリヤマンAryamanこれ信頼の義なり。信頼を守るはこれ同朋なり。旅と取引、結婚と歓待、共同体の和の守護神なり。信頼天。
ダートリDhatrこれ造物主なり。天体と生物、宇宙の多くを造物せり。また能持として世界を維持したるなり。きわめてヴィシュヌに似たり。これ後世にヴィシュヌが性格を奪いたりといえり。造物天
プーシャンPusanこれ栄養と生長、家畜と道の神なり。また霊に道案内をするなり。農神なり。道祖神なり。栄養天。
アンシャAnsaこれ供物の義なり。献供、供養されたる物品の義にして利益なり。家、社、王、寺を支えたるはこれアンシャなり。受食神なり。利益天。
サヴィトリSavitrこれ精気、活力なり。生き生きとした生命の力なり。全身これ黄金に輝く神なり。衰弱と病気の一切を払うなり。生気天。
パルジャニャParjanyaこれ雨と雷の神なり。水の循環にして雲の主なり。豊穣神なり。雨神なり。雨雲天。
アラニャーニーAranyaniこれ森林女神の義なり。生命樹にして生類の育生者なり。百獣母また自然野生の守護女神なり。生類天。

パダナクシパこれ普賢菩薩の所変なれば無垢の菩提心なり。少年神なり。忿怒破壊相を出す時はまさに歩みを擲つが如く足を振り上げる形像につくるべし。

普賢菩薩これサマンタバァドラなり。サマンタバァドラこれサムSamこれ接続せる纏めたるの義なり。アンタAntaこれ端の義なり。サマンタSamantaこれ端をまとめるの義にして総と訳されたるべし。これ第一義に総て、第二義に総べるなり。バァドラこれ善なり。つまりサマンタバァドラSamantabhadraこれ第一義に全ての善男子善女子の義にしてその象徴の義、第二義に完全に賢く善い者の義なり。
普賢菩薩これ月輪に座し左手に芽の出たる葦を持すべし。初発菩提心の義なり。右手には日輪を持すべし。遍照の義なり。

大笑明王 Vajrahasa Attahasa Vajrattahasa

大笑明王ヴァジラハーサVajrahasaこれ虚空蔵菩薩の金剛笑の姿とりたるときに出したる変相なり。金剛笑菩薩のシヴァの変相の一なるAttahasaアッタハーサ高笑尊の姿を借りたるがそれなり。
大笑明王これ軍荼利明王と同体とされるも誤りなり。形像、真言、故事どれも同一せざるなり。金剛笑の笑いは歓喜の笑みなりしが大笑明王の笑いは暴悪大笑の義なり。

大笑明王これ虚空蔵菩薩のナラクーバラの姿を借りれるものなり。ナラクーバラこれ多聞天王の子なり。多聞天王の庭園ヴァスヴアウカサーラーVasvaukasaraこれ天のガンガーの海に流れ出る入江の洲にあれば葦と蓮の生い茂りたる美しい庭園なり。
ナラクーバラそこで生まれたればこの名前つけられたり。ヴァスヴアウカサーラーの義ヴァスヴこれ善きまたは富める、アウカ隠れ家もしくは隠遁所、サーラー小川なれば天河の入江の洲の支流にある美しい隠遁所の義なり。
大笑明王これ天河の入江に住む夷神なり。海神なり。

大笑明王これ忿怒破壊相を出すときは兜跋毘沙門天として天兵の大将軍の姿の示現せり。勝敵毘沙門と呼ばれる尊格ありて刀八毘沙門などと呼ばれる尊格と同体とされるときは、これ兜跋毘沙門天ナラクーバラの変相、大笑明王と知るべし。

またシンドゥーの河口にはポータラカPotalakaあり。Potalaこれ船にしてKaこれ所有複合語を形成して所在の義なり。船場、船着き場、海港の義なり。河の海と面したるところ、その海にある山島なり。仏塔が立ち観自在菩薩の住めり。観自在菩薩の化身にまたマツィエーンドラナータァMatsyendranatha魚皇主観自在これあり。魚の守護尊なり。

ナラは葦の義またときに蓮の義あり。クーバラこれ健やかに美しいものクーバラといい長い棒や骨これクーバラというなり。クベーラと同ずべからず。その形像は大日如来の如く髪髻を高く結い上げたり。身体これ肥満し衣装を着けたり。ヴィシュヌの化身たるマツヤMatyaに乗り右手に龍索を左手に如意宝珠を咥えたる摩竭魚Makaraを持つべし。また三叉戟、槍、鉤、カルタリKartari斧包丁、髑髏杯、睡蓮を持すべし。

大笑明王これ三面あり。中にナラクーバラ面、右にマニグリーヴァ面、左にシュリー面を出すべし。マニグリーヴァこれナラクーバラの兄弟にして龍王なり。龍頭にして首の逆鱗に如意宝珠を着けたり。シュリーこれ海から生まれたる神にして龍王と深い関係にあり。シュリーの義は繁栄また栄光でありリッディとも呼ばれるべし。将来においてシュリーマニラトナサンバーヴァ仏となるべしなり。

日本に恵比寿神と呼ばれる尊格あり。その形像日本で造られたと思われしが古代のヴァルナ像とほぼ変わらず。してみれば大黒と恵比寿の組み合わされるは実は忠実にインド伝来を表わしたるなり。
ヴァルナこれ天蓋と天則の守護者にして天部の主の義なり。このヴァルナ数千年も前に信仰を失い古代の形像も全く変化して西の方護また水神としてあり。しかし水の循環はパルジャニャなれば重なれり。
これにて古来の八大明王と十大明王すべて含められたり。十二大明王にて完成されたるなり。

太元帥明王 Atavaka

太元帥明王これアータヴァカAtavakaなり。荒野鬼神と呼ばれたるはこれなり。林住夜叉の義なり。無尽意菩薩の所変なり。
太元帥明王の形像これ獅子頭につくるべし。また山羊、猿、羊、馬の五面につくるべし。二頭の大蛇を瓔珞とすべし。巨大な二頭の蛇の足から螺旋に巻き付きたるべし。また両手にも蛇の二匹ずつ巻かれたるなり。胸の前にて鉄鑰と三鈷杵を構えるべし。五鈷杵と戦輪を振り上げ、王笏と長杵、斧と剣を構えるべし。その後背からは噴出するが如くのガルーダの羽の如くに六翼の劫火の現れたり。

金剛威嚇明王 Vajrahumkara 

金剛威嚇明王これヴァジラフーンカーラこれなり。シュンバァの弟Nisumbhaニシュンバァなり。バイラヴァとカーララートリーを踏む。
また一説にトライローキャヴィジャヤと同体とする説あり。ときに降三世明王に伴って勝三世明王なる尊格の対となって現れたるはシュンバァとニシュンバァこれ兄弟なればなり。

金剛伏魔将軍明王 Satagiri

金剛伏魔将軍明王これシャタギリ百山夜叉なり。

金剛火焔日輪明王 Vajrajvalanalarka

金剛火焔日輪ヴァジラジヴァラアナラアルカと呼ばれる尊格これあり。これ愛染明王パーンチカの父なるパーンチャーラガンダか。
金剛火焔日輪明王これ煩悩魔と黒太子、赤星女尊と乾牛女尊を踏むべし。一説にマハーマーヤー尊を明妃とせり。

清浄蓮華明王、廣大明王、大可畏明王

いずれも不空羂索観音の変化身なり。殊に清浄蓮華明王は光明真言の主尊なり。

六字明王 Sadaksarimahavidya

六字明王と日本で呼ばれるものこれあり。二流派あり。一つはシャッドアクシャリーローケーシュヴァラSadaksari六字観自在菩薩の脇侍であるマニダァラManidhara持宝珠尊とシャッドアクシャリーマハーヴィドヤーSadaksarimahavidya六字大明尊のうち六字真言の威徳を尊格化した六字大明尊を六字明王とするものなり。本来は明王と呼ぶべきものではなく大明また明神なれど経に根拠ある尊格なり。もう一つは六観音をまとめたるものなり。六観音の種子を集めて真言となし、その威力を尊格化としたれども明王にあらず。

三宝荒神 Kampa

三宝荒神これカンパなり。カンパこれ震え、戦慄の義なりて瘧神なり。瘧おこり、これマラリアや風邪また振戦麻痺の義なり。これらの病気にかかると寒気もしくは痙攣により激しく震えたればこの疫病神をカンパというなり。俗に震える意味だから地震の神などというのは付会に過ぎず誤りなり。そもそも日天の眷族にして執曜とあればそれ運命を表わす星宿の一なれば地震神であるべくなし。

またカンパ西北にありとなればこれ風天の方角なり。古来より瘧の類は風によって起こされたる風邪と謂われたればカンパこれ瘧神なること明らかなり。事実インドにおいてはカンパという病はヴァータという下級の物理的な風神によって起こされるといわれたり。宇宙論的なヴァーユ、ルドラ、インドラなどの神々の下には物理的なヴァータVata、マルトMarut、パルジャニャParjanyaなどが下級神として仕えたり。いわゆる風神と雷神また雨神なり。
荒神と呼ばれるはこれ嵐、荒らし、悪らしの義なり。もって古来よりルドラを含む暴風の神は荒神と呼ばれるべし。

されどカンパこれ夜叉神とされり。なればこれガンダーラまたインドにおいて疫病は大夜叉王パーンチカの祟り神としてもたらされると考えられたればなり。故にカンパとパーンチカこれ習合して夜叉神とされ本来のパーンチカと同様にかまど近くに祀られたり。祟り神を篤く祀れば福神となる信仰なり。もってカンパと三宝を護る護法神となったパーンチカと習合して三宝荒神とも呼ばれるようになれり。
荒神に願う時はパーンチカ大将軍に願っているのか瘧神カンパに願っているのか尊格を明確にして願うべし。

大勝金剛

大勝金剛これ大日如来の変化身なり。その真言オーン・マハーヴァジローシュニーシャ・フーン・タラーハ・フリーヒ・アハ・フーンなれば四仏の種子を集めたるものなり。もって四仏の悟りこれ勝義においては一なることを示すべし。明王にはあらず。サルヴァヴィドSarvavid一切智大日如来も四面ありて一切智を顕したれば大勝金剛これサルヴァヴィドの如し。大勝金剛これ明王また仏頂の説あれど大日如来の仏頂これダルマそのものなれば、大勝金剛これ不動金剛や文殊金剛などと同様に仏と菩薩の全ての徳を一身に顕したる大日如来の変化身といえり。

大明青黒受持弁才天 Mahavidyanilasarasvati

大明青黒受持弁才天また大明青黒受持弁才仏母これマハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーなり。マハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーのニーラこれサファイアなり。濃厚なる青の義なり。肌色の輝く深い濃青なればこれニーラなり。

マハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーのサラスこれ第一義に盤の義なり。第二義に池、第三義に盆、第四義に容器なり。つまり城の堀これサラスなり。家の水盤これサラスなり。缶や桶や貯水槽これサラスなり。盆地これサラスなり。火盤あるいは火盆これサラスなり。池と水溜まりこれサラスなり。サラスこれつまり平らなる部分が凹んで諸物諸事を受け入れるようになれりの義なり。受なり。受これ盤に物を入れるを受というなり。

サラスヴァティーのヴァタこれ第一義に持するなり。もって第二義に総持、請願、希望の義なり。
つまりサラスヴァティーこれ受持なり。また受持に二義あり。第一義は仏の教法を受持しもって恩恵を施したる水徳なり。一切如来智大印の下向きにより示されるべし。第二義は衆生の希望、菩薩の請願を受持しもって如来に届けたるの火徳の義なり。一切如来智大印の上向きによって示されるべし。

サラスヴァティー盤を持せる者なれば白サラスヴァティーの水盤を持し仏の教法を大河の如く流通すべし。青サラスヴァティー火盤を持し衆生の希望、菩薩の請願を如来に届かしむるべし。大明青黒受持弁才仏母の大明はこの義なり。またこのマハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーはヨーギニーにあらずば妃ならざるなり、仏母というべし。また弁才天の弁才は衆生の希望、菩薩の請願、如来の教法を弁事、弁務したるの義なり。

サラスヴァティーこれ人類の祖マヌの母なり。サラスヴァティー人類の始まりたる太母と知るべし。また言語を産み出したるもこれサラスヴァティーなればダァルマの母胎なるべし。サラスヴァティーの異称サヴィトリーは産出するものの義なり。もってGarbhodbhavaisvari胎蔵生自在ガルボォドバーヴァイーシュヴァリーというべし。

このマハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーの別名にバーヴァターラーあるべし。バーヴァこれ心相変生なり。心の位相が変性して生まれ変われるをバーヴァというべし。気持ち、精神、感情とも訳されるあり。心の雰囲気なり。盗賊の荒々しい心が仏により菩薩の慈悲に満ちた心情に変わるこれバーヴァなり。心の位の変わるなり。つまり大明青黒受持弁才仏母これ、この身のまま生まれ変わりを成さしめる尊と知るべし。

ヨーガYogaあるべし。ヨーガこれ軛の義なり。如意ならざるものあり、身体と外界なり。これに理法という軛をつける、つまりダァルマに則った行為をおこなうことで心のまま扱えるようにすること、これをヨーガ如理と謂うべし。如理これつまり科学なり。如理これ如意のためなれど如意なるためには心もまたダァルマに則ること悟りたればこれバーヴァなり。

大明青黒受持弁才仏母の形像これ三眼あり。豹皮を腰巻としマーラの生皮をもって帯とすべし。積み上げられたる焚き木に遊戯座すればホーマHomaあるとき自身も劫火に包まれたり。下ろしたる足にマーラ踏めり。一切如来智大印の浮き出たる燃え盛る火盤と火挟み、マーラの首と三叉戟、マーラ刻みたるカルタリ斧包丁と肉をいれたる髑髏杯を持てり。剣と王権を現す法輪、鉄鑰と王笏、弓と矢、法螺貝と蛇の巻き付けたる三弁如意宝珠載せれる蓮華、盾と鎚にて武装せり。

首に髑髏の瓔珞を纏い二匹の大蛇巻きつけたるべし。腕ごとに二匹の蛇巻きたり。被りたる冠に白蛇の一髻の如く立ち上がりて住めり。これウラガUragaなり。ウラガこれ地底界に住める人頭を有せる蛇の義なりナーガなり。宇賀神と呼ばれるはウラガの羅の抜けたる如し。

大明青黒受持弁才仏母これ七面あり。中にニーラサラスヴァティー面、右にブッダァローチャナー面、左にナイラートミヤー面、後ろにカァヴァジリーニー面これ出すべし。頭頂には中に一字金輪仏頂面、右にヴァーチ面、左にはスヴァーハー面を出すべし。ブッダァローチャナーこれ虚空宝また虚空眼とも呼ばれるべし。ナイラートミヤーNairatmyaこれ無我の義なり。カァヴァジリーニーこれ虚空金剛の義なり。カァヴァジリーニーこれ不空成就仏の能生の母なり。全てこれブッダァの明妃なれどブッダァの明妃これ実在の女ならず功徳あれど実体なき智を本質とするもの、ジュニャーナサットヴァJnanasattvaであることを明らかにするなり。これ全て同体なり。
共通真言オーン・ア・アー・イ・イー・ウ・ウー・ル・ルー・リ・リー・エー・アイ・オー・アウ・アム・アハ・スヴァーハーこれ母音の集まりなれば存在これ縁により要素の集まりて仮に現れるの義なり。

マハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーこれ七面あれば七面大明神と呼ばれることこれあり。七面は七面あれりの義をとりたり。大明神これマハーヴィドヤーの義をとりたるなり。サラスヴァティーに池を持てるの義あれば七つ池の霊山を護れる七面大明神のマハーヴィドヤーニーラサラスヴァティーなること明らかなり。
また後世に赤龍の説、最勝国の第三王女の説これあり。この説に拠るならば七面大明神これ清瀧権現Anavataptaなり。

頭頂の一字金輪仏頂はダァルマなり。ヴァーチVacは言語なり。般若波羅蜜は言語によってしか得られえず、しかしダァルマに達したのちは捨てられるべきことを現すなり。
スヴァーハーSvahaはこれSvaは第一義に我、第二義に善くなり。Ahaは言えり。Dahaは第一義に燃焼、第二義に火葬、第三義に積み上げ整えたり。第四義に安定アチャラしたり。第五義に池この場合は火盤の義なり。
つまりスヴァーハーこれ第一義に善くあれかし。第二義に我言えり、完結の義。第三義に願いまた有情を火によって清め仏に送るの義。第四義に我は善く整え安定させ儀式を完成させたるの義なり。
なればスヴァーハー面のあるは大明青黒受持弁才仏母これホーマの主尊なることを示すべし。スヴァーハーこれ神仏に対して呼びかけるなり。スヴァダーこれ祖霊に対して呼びかけるなり。スヴァダーSvadhaの義これ我はこの飲食物を祖霊に送ることを定めたりの義なり。

ブッダァローチャナーこれ宝部尊の明妃なり。ナイラートミヤーこれ金剛部尊の明妃なり。カァヴァジリーニーこれ業部尊の明妃なり。ヴァーチこれ蓮華部尊の明妃なり。スヴァーハーこれ香象部の明妃なり。サラスヴァティーこれ仏部尊の明妃なり。一字金輪仏頂これ不二一如のダァルマなり臨照光なり。サラスヴァティーこれプルシャPurusa原初の魂、原人原型に拠り自ずから生じたればナーラーヤニーともいわれたるべし。

ラクタサラスヴァティーと呼ばれる尊格あり。これ全身赤色にしてヴィーナーVinaに代わりて左手に長大な手鏡を持てり。金剛杵の如く逆手に握りたれば鏡面を衆生に向けたるなり。これ智慧鏡にしてあなたこそがサラスヴァティーであることを示すなり。右手には三弁如意宝珠を持すべし。
サラスヴァティー他にも種類あれどそれらシター、ニーラ、ラクタの三大サラスヴァティーの変化に過ぎず。ヴァジラサラスヴァティーこれあれどそれもシター、ニーラ、ラクタの武器を執りたる多臂忿怒相としてシターヴァジラ、ニーラヴァジラ、ラクタヴァジラとして現れるなり。

特殊な尊格

チンナマスタナーガアルジュナChinnamastanagarjunaこれ断頭龍蛇白銀尊なり。
古来ナーガアルジュナ樹また猛の訳語あたえられたるが誤りなり。ナーガアルジュナ白銀に輝く霊蛇の義なり。チンナマスタナーガアルジュナこれブラフマの求めに応じて自ら断頭して空の義を教示したるなり。断頭龍蛇白銀尊の自ら断頭したれば、その頭ブラフマに手渡せり。それを見てインドラ神の膝まずき礼拝したり。インドラこれ王侯檀那の象徴にしてアルジュナこれインドラの異称でもあり。またインドラの化身たるアルジュナこれナーガの娘を配偶者としたるなり。

ダグダァバーフDagdhabahu燃臂薬王尊これ薬王菩薩が前世である一切衆生喜見菩薩の燃臂供養相を出したるなり。
燃臂薬王尊の肘より下は燃え尽き全身は香油の火焔に包まれたり。薬師玉皇如来、右手を薬王菩薩の頭にかざし薬通菩薩それを礼拝するなり。
薬師仏を祀れる寺院これ必ず薬師仏に属する明王たる燃臂薬王尊を祀るべし。

薬師玉皇如来これ古い訳にいう薬師瑠璃光王如来なり。
バァイシャジャグルヴァイドゥーリャプラバーラージャBhaisajyaguruvaiduryaprabharajaの訳なれど古代のチベットまた中国のインドの宝石の種類多きこと知らざればヴァイドゥーリャの訳これ瑠璃と誤りたり。
瑠璃これラピスラズリにしてサンスクリットにおいてはNrpavartaヌルパーヴァルタなり。ヌルパこれ守護者また王アーヴァルタ黄鉄鉱なればヌルパーヴァルタ王の黄鉄鉱また黄鉄鉱を含む守護石の義なり。

ヴァイドゥーリャこれクリソベリルキャッツアイなり。クリソベリルキャッツアイこれ光に当たりし黄金の如く緑がかった金色に輝きたれば金仏の例えられたるなり。つまりこれ瑠璃にあらず玉なり。
またプラバーラージャこれ光り輝く王また自らで王である義から皇であること明らかなり。薬師玉皇仏なり。薬師玉皇仏これシヴァのヴァイドヤナータァVaidyanatha薬師医王と称えられしことから最も早い段階でシヴァの変化相を借りたる尊格といえり。ヴァイドゥーリャの語を入りたるはヴァイドヤを連想させるものと思われり。

薬通菩薩はこれ古い訳にいう薬上菩薩なり。
バァイシャジャサンドガタBhaisajyasamudgataこれサム全てウドガタ上がりたるなれば全て上り終えたる、全て渡り終えたるの義なり。通の義これ通じる、渡る、至る、全て知り尽くすなればサンドガタこれ通なり。

薬師十二神将あり。
クンビーラKumbhiraこれ現代インド語にいうガァディヤーラつまりガビアル鰐の義にしてガビアルをトーテムとしたる夜叉なり。
ヴァジラVajraこれグヒヤカなり。
ミヒラMihiraこれ水をもたらす太陽の義なりてスーリヤなり。
アンディーラAndiraこれ強い男の義なり。プラーナ文献にパーンドヤ王の父とあり。もしくはスカンダか。
アニラAnilaこれヴァーユなり。
シャンディラSandilaこれ強い酒の義にしてアグニの祖父とあれど、おそらくアグニなり。
インドラIndraこれゾロアスター教のアシュマンと同様の外側が赤茶色の岩石、内側が天球の宇宙そのものにして蒼穹の義なり。
パジラPajraこれソーマ汁のとれる植物の義なりてソーマなり。
マホーラガMahoragaこれマハーウラガの義なればパーターラ地底界の霊蛇なり。
シンドゥーラSinduraこれキンナラとされる義あれどシンドゥーラこれ鉛丹の義にしてヴェーダにはアラニャーニーの兄にして夫とあり。
チャトゥラCaturaこれ賢い、機知、狡猾の義にして仏典にある十六大国アンガ国の王なり。もしくはガネーシャか。
ヴィカラーラVikaralaこれヴィカラーラなればドゥルガーなり。ヴィカーラーであればハーリーティーなり。また畢婆迦羅と書ける場合はこれヴィバーカラVibhakara光を作るの義にして太陽や月の義なり。
しかれども多少の異同あれど、おそらく十二神将はこれローカパーラLokapalaを表わせると思えり。なれば不明または不整合な部分にはクベーラ、ヴァルナ、ヤマ、プリティヴィー、ブラフマを加えるが妥当なりか。

アマテラスあり。
これ仏尊として祀りたるときはアディティと同体であると知るべし。アディティこれ大日如来また大日の心たる普賢とその展開にして大日の四親近の上首である一切除蓋障菩薩の三重の変化身なり。愛染明王と不動尊の二つの輪身を出すべし。
脇侍は右にヴァジラダーカこれスサノオの後裔たる八幡を置くべし。これ馬頭尊と同体にして観自在菩薩の変化身であり阿弥陀仏の眷族なり。天皇なり。左にヴァスダーラーこれツクヨミの後裔なる稲荷にしてこれを置くべし。これ降三世明王と同体にして普賢菩薩の変化身であり不動仏の眷族なり。豊受なり。ヴァジラダーカの右にはヴァジラヴァーラーヒーを置くべし。ヴァジラヴァーラーヒーこれダーキニー巫女の主なり。ヴァスダーラーの左にはマーリーチーを置くべし。女性軍神なり。また稲荷の四親近また歩擲明王の十二大神を加えてもよし。

大応供仏これあり。
阿弥陀仏にして釈尊なり。脇侍にスジャーターSujataとチュンダCundaを置くべし。スジャーターこれ最初の供養者にして善生菩薩と訳すべし。チュンダこれ最後の供養者なり。チュンダこれ漢訳に妙義の訳あれど誤りなり。チュンダこれ促進の義なり。無余涅槃に至るを進め促したるの義なれば本名であるかは疑わしきなり。勧導また勧進と訳されるべし。勧進菩薩なり。供養の功徳を示すものなり。

チュンダの供養したる食事にSukaramaddavaスーカラマッダヴァあり。Sukaraこれ猪なり。Maddavaこれ突き砕きたるの義なり。スーカラマッダヴァこれ干したる猪また豚の肉を擂鉢で突き砕きたるに肉の繊維ほぐれ空気含みて綿毛の如くなりたり。これを野菜などと煮込みたるに肉は泥の如く柔らかくなりたり。これ料理名スーカラマッダヴァなり。遊牧民などには一般的な料理なれど農耕民のそれ知らずば特殊な茸であるとか豚の生肉をそのまま食べてたなどと誤りたり。

このSukaramaddavaに秘密の義あり。Suこれ促す、動かすの義なり。Karaこれ作る、引き起こすの義なり。Madこれ喜悦、歓喜の義なり。Daこれ与えるの義なり。Vaこれ確実に至らしむるの義なり。つまりスーカラマッダヴァ秘密の義においてこれ歓喜に至るためにそれを進める、また引き起こすものの義なり。

十六大菩薩あり。
金剛薩これ普賢菩薩なり。真如金剛、大勇金剛、金剛手菩薩なり。サットヴァ薩怛鑁に主に三義あり。第一義に純質、第二義に有情、第三義に勇猛なり。ヴァジラサットヴァの場合これ金剛を純質とする不動仏。密教に帰依したる不退転の有情、金剛士。固有名詞としての金剛勇猛また金剛勇。この三義の違いを区別すべし。

金剛王菩薩不明なれど不空王の異名また王の徳とあれば観自在菩薩か。なれば観自在菩薩の分身また変相に不空鉤菩薩これあり。自在金剛、執鉤金剛、不空王菩薩。
金剛愛菩薩これヴァジララーガなればこれ文殊菩薩の異名なり。また魔羅菩薩ともあればカーマの仏教に帰依したる姿か。離楽金剛、離愛金剛、摩羅菩薩。
金剛喜菩薩不明おそらくサットヴァの上首にして金剛首とあれば普賢菩薩もしくは歓喜尊としてのガネーシャの仏教に帰依したる姿か。原語のSadhuは本来は真っ当なるの義にして物事に率直に純粋に正確に力強く当たる義なれば正なり。讃嘆金剛、安楽金剛、善哉金剛、歓喜菩薩。

金剛法菩薩これ観自在菩薩なり。正法金剛、蓮華金剛、清浄金剛、観自在菩薩。
金剛利菩薩これ文殊菩薩なり。般若金剛、除罪金剛、曼殊室利菩薩。
金剛因菩薩これ纔発心転法輪菩薩と同体とあれば弥勒菩薩なり。不退金剛、菩提金剛、纔発心転法輪菩薩。
金剛語菩薩これ経に文殊の一切法無言無説と語り性空金剛また離戯論の徳とあれば文殊菩薩。性空金剛、妙語金剛、無言菩薩。

金剛宝菩薩これ虚空蔵菩薩なり。大宝金剛、如意金剛、厚蔵金剛、虚空蔵菩薩。
金剛光菩薩また金剛日ヴァジラスーリヤとも呼ばれたればこれも虚空蔵菩薩なり。威徳金剛、威光金剛、大威光菩薩。
金剛幢菩薩これ地蔵菩薩なり。円満金剛、願満金剛、宝幢菩薩。
金剛笑菩薩これ大笑明王は虚空蔵菩薩の変相と大妙金剛経にあれば虚空蔵菩薩なり。喜悦金剛、歓喜金剛、常喜悦菩薩。されどまた金剛愛菩薩と同体とせる説あり。

金剛業菩薩これ毘首羯磨とあればヴィシュヴァカルマンの仏教に帰依したる姿なり。善巧金剛、弁事金剛、毘首羯磨菩薩。
金剛護菩薩これ異名に金剛慈友とあればこれマイトレーヤにして弥勒菩薩なり。精進金剛、難敵金剛、難敵精進菩薩。
金剛牙菩薩これ摧一切魔菩薩と同体なれば一切除害障菩薩なり。猛利金剛、調伏金剛、護法金剛、摧一切魔菩薩。
金剛拳菩薩これ異名に金剛持とあれば金剛手菩薩なり。されど理趣経の八大菩薩に矛盾したれば金剛を執りたる普賢菩薩か。秘密金剛。一切如来拳菩薩。

百八世界主 108Lokesvara

1、Hayagrivaハヤグリーヴァ馬首。2、MojaghanjabalaモージャガーンジャバラMojaこれMunjaムンジャの変化にして藁や菅また藺など葉や茎が長く束ねて利用される草でありGhanjabalaおそらくGanjavalaであればGanja飼料貯蔵庫Vala洞窟Ganjavaraガンジャヴァラなれば会計者にして、あわせて飼葉出納、草蔵、家畜守護、蓄養。3、Halahalaハーラーハラこれ乳海を撹拌した時に不死甘露と分離したる時積また死毒闇質Kalakutaカーラクータと呼ばれるものにして世界障碍なれど、この場合は毒主。4、Harihariharivahanodbhavaハリハリハリヴァーハノードバーヴァ神三乗神輿産生。5、Mayajalakramaマーヤージャーラクラマ幻網次第。6、Sadaksariシャッドアクシャリー六字。7、Anandadiアーナンダーディー施歓喜。8、Vasyadhikaraヴァシャーディーカーラ至高立法者もしくは存在一切根源。9、Potapadaポータパーダ船足これ船の沈没せざる、また速く進ましむる義か。

10、Kamandaluカマンダル水瓶。11、VaradayakaおそらくSatavaradayakaにしてシャタヴァラダアヤカ百願成就。12、Jatamukutaジャタームクタ乱髪髻冠。13、Sukhavatiスカーヴァティー極楽。14、Pretasantarpanaプレータサンタルパナ浄霊。15、Mayajalakramakrodhaマーヤージャーラクラマクローダァ幻網次第激怒。16、Sugatisandarsanaスガティサンダルシャナ善趣示現。17、Nilakanthaニーラカンタァ青頸。18、Lokanatharaktaryavalokitesvaraローカナータァラクタールヤーアヴァローキテーシュヴァラ護世尊血染聖降臨主。この場合は世界主はつけぬなり。

19、Trilokasandarsanaトライローキャサンダルシャナ三界示現。20、Simhanathaシンハナータァ獅子主。21、Khasarpanaカァサルパナ虚空遊行。22、Manipadmaマニパドマ宝珠蓮華。23、Vajradharmaヴァジラダァルマ金剛法。24、Pupalaプーパラーこれ小麦生地を練り、厚く固め焼いた後に油で揚げた菓子にして供養菓。25、UtnautiこれおそらくUnnatiウンナティにして崇高。26、Vrsnacanaヴルシュナーチャナ強力の義なるヴルシュニに強調する不定代名詞で強力者。27、Brahmadandaブラフマダンダ梵笏杖。

28、AcataこれおそらくAcintyaアチントヤにして不可思議。29、Mahavajrasattvaマハーヴァジラサットヴァ大金剛勇。30、Visvahanaこれ全世界を殺滅する義なれど、おそらく誤りにしてHaraなればヴィシュヴァハラ全世界を持ち運ぶ、また生滅自在の義なれば全世界運命自在。31、Sakyabuddhaサーキャブッダァ能悟。32、Santasiシャーンターシ寂静。33、Yamadandaヤマダンダ法王笏杖。34、Vajrosnisaヴァジローシュニーシャ金剛仏頂。35、Vajrahuntikaヴァジラフンティカ金剛憤尊。36、Jnanadhatuジュニャーナダートゥ智界。

37、Karandavyuhaカーランダヴューハ荘厳建築。38、Sarvanivaranaviskambhiサルヴァニヴァラナヴィシュカンビィ一切除害障。39、Sarvasokatamonirghataサルヴァショーカタモーニルガータ脱一切憂闇到彼岸。40、Pratibhanakutaプラティバーナクータ明晰頂上もしくは智積これ古い訳に言う弁積なり。41、Amrtaprabhaアムリタプラバー不死光。42、Jaliniprabhaジャーリニープラバー網光もしくは円光。43、Candraprabhaチャンドラプラバー月光。44、Avalokitaアヴァローキタ降臨。45、Vajragarbhaヴァジラガルバァ金剛蔵。

46、Sagaramatiサーガラマティ海慧。47、Ratnapaniラトナパーニ宝手。48、Gaganaganjaガガナガンジャ虚空庫。49、Akasagarbhaアーカーシャガルバァ虚空蔵。50、Ksitigarbhaクシティガルバァ地蔵。51、Aksayamatiアクシャヤマティ無尽慧。52、Srstikantaスリシュティカーンター生成最愛。53、Samantabhadraサマンタバァドラ普賢。54、Mahasahasrabhujaマハーサハスラブージャ大千手。

55、Maharatnakirtiマハーラトナキールティ大宝称。56、Mahasankhanathaマハーシャンカァナータァ大螺主。57、Mahasahasrasuryaマハーサハスラスーリヤ大千日。58、Maharatnakulaマハーラトナクラ大宝族。59、Mahapatalaマハーパーターラ大地獄。60、Mahamanjudattaマハーマンジュダッタ大妙賜。61、Mahacandrabimbaマハーチャンドラビンバ大月盤。62、Mahasuryabimbaマハースーリヤビンバ大日盤。63、Mahaabhayaphaladaマハーアバァヤパァラダ施無畏。

64、Mahaabhayakariマハーアバァヤカリー作無畏。65、Mahamanjubhutaマハーマンジュブータ大妙霊。66、Mahavisvasuddhaマハーヴィシュヴァシュッダァ大全世界浄化。67、Mahavajradhatuマハーヴァジラダートゥ大金剛界。68、Mahavajradhrkマハーヴァジラドフリクこれドフリク自己が軸受また中心となりて物事を大いに振り回して現すの義にして主軸、主役、主演であり、この場合は雷を振り回すの義にして大金剛奮威。69、Mahavajrapaniマハーヴァジラパーニ大金剛手。70、Mahavajranathaマハーヴァジラナータァ大金剛主。71、Amoghapasaアモーガパーシャ不空羂索。72、DevadevataデーヴァデーヴァターこれDeva自らで輝くの義なれば皇にしてデーヴァデーヴァター天の中の天の義なれば天中天、神族主神、天人丈夫、天皇なり。

73、Pindapatraピンダパートラこれ白飯を大麦粉および油と共に握り黒胡麻をまぶした御握りを施すなれば飯椀または施食。74、Sarthavahaサールタァヴァーハ隊商主。75、Ratnadattaラトナダッタ宝賜。76、Visnupaniヴィシュヌパーニ遍満手。77、Kamalacandraカマラチャンドラ蓮染月。78、Vajrakhandaヴァジラカァンダ金剛部。79、Acalaketuアチャラケートゥ不動幢または山幢。80、Sirisaraシリサラー不明なれどSilaの転訛であるなら道徳随順シリーサラーならば杼の動く流れる義にして機織か。81、Dharmacakraダァルマチャクラ法輪。

82、Harivahanaハリヴァーハナ神輿。83、Sarasiriサラシリ不明なれどSilaの転訛であれば随順敬虔サラシリーならば流動する芋虫の王の義にして山繭蛾の幼虫つまり絹蚕か。84、Hariharaハリハラ遍満吉祥もしくは雙身。85、Simhanadaシンハナーダ獅子吼。86、Visvavajraヴィシュヴァヴァジラ一切金剛。87、Amitabhaアミターバァ無量光。88、Vajrasattvadhatuヴァジラサットヴァダートゥ金剛純質界。89、Visvabhutaヴィシュヴァブータ全世界霊。90、Dharmadhatuダルマァダートゥ法界。

91、Vajradhatuヴァジラダートゥ金剛界。92、Sakyadhatuサーキャダートゥ可能界。93、Cittadhatuチッタダートゥ心界。94、Cintamaniチンターマニ如意宝珠。95、Santamatiシャーンタマティ寂慧。96、Manjunathaマンジュナータァ妙主。97、Visnucakraヴィシュヌチャクラ聖王輪。98、Krtanjaliクルターンジャリ表敬施薬もしくは合掌。99、Visnukantaヴィシュヌカーンター遍満最愛。

100、Vajrasrstaヴァジラスリシュタ金剛生成。101、Sankhanathaシャンカァナータァ螺主。102、Vidyapatiヴィドヤーパティ明智主。103、Nityanathaニトヤナータァ久遠主。104、Padmapaniパドマパーニ蓮華手。105、Vajrapaniヴァジラパーニ金剛手。106、Mahasthamapraptaマハースターマプラープタ大安立得これ弥勒菩薩なり。107、Vajranathaヴァジラナータァ金剛主。108、Srimadaryavalokitesvaraシュリーマドアールヤーヴァローキテーシュヴァラ栄光陶酔聖降臨主。この場合は世界主はつけぬなり。

この他に誤写や誤記により108ローケーシュヴァラに多くの種類あり。明らかな誤記ならずして尊格として成立したるものこれなり。

109、Nrtyanathaニルトヤナータァ舞踊主。110、Vajrahetuヴァジラヘートゥ金剛因。111、Vajrasphotaヴァジラスポータ金剛開示。112、Hariharihariharivahanaハリハリハリハリヴァーハナ神四乗神輿。113、Adibuddhaアーディブッダァ本初仏。114、Amrtambhaアムリタアンバァ甘露水。115、Visvamataヴィシュヴァマタ全世界思考。116、Dharmapithaダァルマピータァ法座。117、Kharakhiriカァラキィリ不明なれどKhiriはKilaの転訛なるなら堅楔の義なり。

118、Vajradandaヴァジラダンダ金剛笏杖。119、Dhvajagrakeyuraドゥヴァジャーグラケーユーラ目標とすべき至高の標識の義にして幢頂腕輪もしくは頂上禅定尊。120、Khirikharaキィリカァラ不明なれど傷つける堅きものの義なれば鋭利か。121、Bindupaniビンドゥパーニ珠手もしくは滴手。122、Kamalarudraカマラルドラ蓮華咆哮。123、Mahavisvabhupaマハーヴィシュヴァビューパ大全世界王。124、Mahasilaマハーシラ大徳行。125、Mahasaktaviraマハーシャクタヴィーラ大解脱力勇猛もしくは大力精進。

126、Padmanrtyaパドマニルトヤ蓮華舞。127、Caityadhatuチャイトヤダートゥこれ経に仏の教えの一偈でも説き示したれば、その地は世界のCaityabhuta神聖なことが行われた地となるとあればチャイトヤこれ神聖な霊木や建物また聖域や構造物の義にして聖界。128、Pravaraプラヴァラ至高者。129、Vajramukutiヴァジラムクティーこれ弾く音の義にして金剛叩撃もしくは金剛驚覚。130、Pitapattaピタパッタ黄布これ糞掃衣の義なるか。131、Pretasantarpitaプレータサンタルピタ亡霊飽満。132、Trailokyavasamkaraトライローキャヴァシャンカラ三界征服。133、Hariharivahanaハリハリヴァーハナ神二乗神輿。134、Krsnacalaクリシュナアチャラ黒闇不動。135、Mahasribhalaマハーシュリーバーラー大繁栄光。

136、Mahaabhayasthulaマハーアバァヤストゥーラ大不敵重厚もしくは大胆不敵。137、Sivakantaシヴァカーンター吉祥最愛。138、Visnuヴィシュヌ遍満。139、Usnisanathaウシュニーシャナータァ仏頂主。140、Suprasarthaこれスプラサールタァなれば偉大な商隊Supurasarthaなれば商隊の堅固な要塞と訳せれど、おそらくSuprasaritaスプラサーリタ良き知らせを広宣する義にして福音伝道か。141、Jnanamdhariジュニャーナムダーリ智持。142、Brahmadattaブラフマダッタ梵賜。143、Vasantaヴァサンタ春もしくは華麗。144、Brahmadidevaブラフマーディデーヴァ梵本神。

145、Kramacandraクラマチャンドラ月次第。146、Mahavajraマハーヴァジラ大金剛杵。147、Bindupatraビンドゥパートラ珠鉢。148、Indragatiインドラガティ天王渡岸。149、Nilakrsnaニーラクリシュナ青黒黒闇クリシュナこれ月の暗い面の義あれば月黶もしくは地球照月や新月の義か。150、Srimantaシュリーマンタ繁栄撹拌。151、Srayannaシュラヤアンナ護食また豊穣守護と解せれど、おそらくSurayanaスラヤーナ神乗戦車か。152、Lokanathaローカナータァ護世尊。153、Potalakesuvarnasankaraポータラケースヴァルナシャンカラ福生金光港。

154、Dharatiダァラティー執持。155、Dharmasamkaraダァルマシャンカラ福生法。156、Nityacanaニトヤチャナ永遠者。157、Pretagatiプレータガティ亡霊渡岸。158、Gandhavibhuガンダァヴィブゥ普遍香もしくは香王。159、Gandhacittaガンダァチッタ薫香。160、Karunavataraカルナーヴァターラ悲化身。161、Vilancituヴィランチトゥ不明なれど越山かViracitaヴィラチタの転訛ならば完成。162、Kantinavataraカーンティナアヴァターラ愛化身。

163、JogacataジョーガーチャタJogaおそらくJoguの変化にして賛誉でありCataこれ階梯や道程また次第なれば栄光への階梯の義にして積徳。164、Candravarnaチャンドラヴァルナ如月。165、Suryavarnaスーリヤヴァルナ如日。166、Varadaヴァラダ與願。167、KarajaliおそらくJalaにしてカラジャーラ光線奔流。168、Sagaragambhiraサーガラガンビーラ深海。169、SimhaVijrmbhitaシンハヴィジランビィタ獅子開口、獅子無畏、獅子威。170、Simhavikriditaシンハヴィクリーディタ獅子現姿。171、Avicisamsodhanaアヴィーチサムショーダァナ地獄総浄化。

172、Ratnavrstiラトナヴルシュティ雨宝。173、Sanadasaおそらくサナダーサにして久遠神智。174、Vajrasanaヴァジラアーサナ金剛止座。175、Guhyaguptaグヒヤグプタ守秘。176、Meghapatiメガァパティ雲主。177、Atiksiptadhupaアティクシプタドゥーパ没薬投擲これおそらく撒香や灑水の義なり。178、Asvathahastaアシュヴァタァハスタ馬手。179、Bhaisajyesvaraバァイシャジェーシュヴァラ薬主。180、Sumukhaスムカァ麗顔。

181、Sankaraviharaシャンカラヴィハーラ福作遊行。182、Varahamukhaヴァラーハムカァ猪面。183、Dadivisvanathaダディヴィシュヴァナータァ与全世界尊。184、Saptamukhaサプタムカァ七面。185、Mahapratyangiraマハープラティアンギラー大賛歌者またドゥルガーの化身。186、Jalabinduジャーラビンドゥ網珠。187、Padmalankaraパドマアランカーラ飾蓮華。188、Dhatupujaダートゥプージャー世界供養。189、Candraviraチャンドラヴィーラ月勇。

190、Dharmarajaダァルマラージャ法王。191、Dundubhiドゥンドゥビィ天鼓。192、Rsipungavaリシプンガヴァ高名神仙。193、Dasabhumiダーサブーミィ神智領域。194、Sarvajnasilaサルヴァジュニャーシラ一切識無漏救済。195、Vajrasastraヴァジラシャストラ金剛剣これシャーストラの誤記の場合は金剛教示なり。196、Namasangitiナーマサンギーティ称名詠唱。197、Vajrasahasraヴァジラサハスラ金剛千198、Santasriシャーンタシュリー寂静功徳。

199、Ratnadalaラトナダラ宝葉。200、Vajrabodhiヴァジラボーディ金剛仏智。201、Amoghavajraアモーガァヴァジラ不空金剛。202、Jinadhatuジナダートゥこれ仏の遺物や、それを祀る地の義にして勝界。203、Jnanasriジュニャーナシュリー智功徳。204、Ratnottamaラトノーッタマ至高宝。205、Kamalabhattaカマラバッタ蓮華導師。206、Krsnavarnaクリシュナヴァルナ如闇。207、Abhayadattaアバァヤダッタ無畏賜。

208、Indrapatraインドラパートラ最高鉢もしくは至高供養。209、Krsnacanaクリシュナチャナ黒闇者。210、Brahmajanuブラフマジャヌこれ認識する自己を認識する自己にして梵魂。211、Talaniprabhaターラニプラバー音光。212、Mahasamsanathaマハーサンサナータァ大白鳥主。213、Mahavisvabhujaマハーヴィシュヴァブージャ大全世界手。214、Samsanathaサンサナータァ白鳥主。215、Pitapadaピータパーダー黄足これ鶇にして幸運の鳥また御守りなれば幸運。216、Usnisaウシュニーシャ仏頂。

主要なるものこれなれど些細な誤記また誤写あるいは意楽を含めたれば変化観音さらに多くのものとなりたるなり。

部族

部族これ仏部、金剛部、蓮華部、宝部、業部、香象部の六部族あり。香象部これ特殊なり。ヴァジラサットヴァ部と謂えり。香象部これ密教の儀式において受者を香象を跨がせる儀式あり。これヴァジラサットヴァの香象に乗御する義なれば受者をヴァジラサットヴァとなす義なり。
つまりヴァジラサットヴァとはあなた自身に他ならずの義なればこれ受者すべてヴァジラサットヴァ香象部族なり。部主は各部での三昧にて出たるさまざまな姿の普賢菩薩なり。あるいは法身普賢あるいはヴァジラサットヴァあるいはヴァジラーユスVajrayus金剛壽また金剛蔵王あるいは執金剛本初仏あるいは金剛手秘密主、あるいはサマヤサットヴァSamayasattvaなり。

仏部はこれボーディBodhi完全なる開悟をサットヴァ本質また純質とするものなり。このボーディを得たる者ブッダァBuddhaというべし。世間にいう菩薩の義は本義よりずれたるなり。世間にいう菩薩はバウッダァBauddhaの義に近し。バウッダァこれ仏智の一部また中にある明らかにされてない部分のある、また属したる者の義なればブッダァの前段階、小仏、仏弟子をこれバウッダァというべし。

金剛部はこれヴァジラサットヴァVajrasattvaなり。金剛を本質とするの義なり。蓮華部はジュニャーナサットヴァJnanasattvaなり。智を本質とするの義なり。阿弥陀仏は口密にして方便と菩提心の仏なれば金胎不二を顕すなり。宝部はアーチャーリヤサットヴァAcaryasattvaなり。師範を本質とするの義なり。チベットなどではこの本質が強調され本初仏も師範が第四灌頂を与える形になれり。業部はサマーディサットヴァSamadhisattvaなり。三昧を本質とするものの義なり。身口意を如理する義なり。香象部はサマヤサットヴァなり。誓願を本質とするの義なり。また誓願を同じくする同志が同じ時刻に同じ場所に集まれるの義なり。これ大乗の菩薩の誓願により始まれり。本来は業部までしかなかりしが大乗の誓願による部族の後に加わりたるべし。

瑜伽女部族

瑜伽女。如理大明女尊これヨーギニーなり。また大明マハーヴィドヤーなり。性瑜伽の明妃なりて全員これ非常に美しい十六歳の女尊を想起すべし。アシュタヨーギニーAstayoginiこれあり。ガウリー死体と髑髏杯を持つべし、チャウリー、ヴェーターリー、ガァスマリー、プッカシー、シャバリー内臓を握り髑髏笏杖を持つべし、チャンダーリー、ドーンビーこれなり。
尊格として重複せるガウリーとシャバリーはガウリーこれドゥルガーにしてシャバリーこれパルナシャバリーとして独立した尊格なればマータンギーとピシャーチーに置き換えられたるべし。なればドゥルガーこれ時にマータンギーと呼ばれり。シャバリーこれ時にピシャーチーと呼ばれり。

ヨーギニーに十二尊これあり。マータンギーMatangiこれ象女また蝿の主、矮人、売春婦、他人の食べ残しや汚染された食物を食べるものウッチシュタUcchistaと呼ばれり。塵芥や糞尿の掃除また動物の解体や火葬場で死体の解体に従事するなり。太象鬼女なり。母性天。水瓶と如意宝珠を持つべし。インドラを踏む。
チャウリーCauriこれ盗賊鬼女なり。愛敬天。弓と矢を持ち射らんとすべし。カーマを踏む。
ヴェーターリーVetaliこれ起屍鬼女なり。甦生天。亀と尿の入った髑髏杯を持つべし。シヴァを踏む。
ガァスマリーGhasmariこれ大食鬼女なり。豊穣天。蛇を持ち水瓶を抱えるべし。ガネーシャを踏む。
プッカシーPukkasiこれ青黒く染めるの義なればニシャーダNisada黒人と奴隷シュードラSudraの混血種にして狩猟屠殺に従事せたれば汚染鬼女なり。染色天。串刺しの人間の死体を持ちながらその心臓を喰らいたるべし。ヴァルナを踏む。
シュマシャーニーSmasaniこれ死体の打ち捨てられる屍林に住める屍塚鬼女なり。供養天。梵僧の胴体を持ちもがれたる頭を喰らうべし。アグニを踏む。
チャーンダーリーCandaliこれ奴隷と梵僧の娘が通じて生まれる階級にして暴悪から生まれたるの義なり。暴悪鬼女なり。性力天。聖火の燃えたる壺と蓮華を持つべし。ブラフマを踏む。
ドーンビーDombiこれ太鼓を叩いて舞う被差別階級の芸人なり。放浪しながら芸を見せ時に売春や窃盗をするなり。鼓舞鬼女なり。芸能天。鼓と酒杯を持つべし。スーリヤを踏む。
プラモーハーPramohaこれ惑溺鬼女なり。歓喜天。摩竭幢と狼を持つべし。ソーマを踏む。
ピシャーチーPisaci屍喰鬼女なり。祓魔天。虎を持ちながら死体を喰うべし。ヤマを踏む。
クンバーンディーKumbhandi水瓶を抱えたるような膨満した腹をした鬼女の義にして巨腹鬼女なり。子福天。馬に変身するなり。深夜に男性に取り付きその精液を奪う淫魔なり。精液を入れた壺を持ちながら人間の臓物を喰らいたるべし。ヴィシュヌを踏む。
プータナーPutana富単那なり。よくブータと混同されることあれどブータBhutaの音訳これ部多なれば誤りなり。プータナーこれ腐臭の義なり。鳥に変身して近づき子供に病気を起こしたり男女に無闇に性欲を誘発する婬魔なり。腐臭鬼女なり。生命天。鎖と骸骨を持つべし。ヴァーユを踏む。
瑜伽女これ全てサラスヴァティーの眷族なり。もってラクタサラスヴァティーの脇侍にすべし。また瑜伽女これ全て秘密の義におけるサラスヴァティーなり。

宝珠を持つマータンギーと蓮華を持つチャンダーリーは釈尊の眷族にして時に脇侍になるべし。ブッディとシッディなり。同様に薬師如来の脇侍になるべし。これ百字尊なり。またマータンギーとチャンダーリーこれドゥルガーの異称また変化身なれば薬師如来これ諸仏がシヴァのヴァイドヤナータの姿を借りたる現れなること明白なり。
マータンギーの真言これオーム・フリーム・アイーム・シュリーム・ナモー・バガヴァティー・ウッチシュタチャンダーリー・シュリー・マータンゲーシュヴァリー・サルヴァジャナヴァシャンカリー・スヴァーハーなればドゥルガーこれ変相としてマータンギーの姿を現すこともまた明白なり。光輪に座し火焔に包まれたるべし。またこれ大印の穏やかな顕れなるべし。激しい顕れにおいてはこれら瑜伽女またラクタサラスヴァティーと性瑜伽の形をとるべし。

二十八部衆

千手観自在の眷族なり。二十八部衆は部族にして単一の尊格にあらず。
一、Guhyapadavajra密迹金剛力士。密迹金剛士部。
二、UsukundankusiSankaraグヒヤカ女かドゥルガーなるか。Usukundankusiこれ火穴を有する鉤女もしくは象使いの義なり。火穴とはこの場合おそらく第三眼のことなり。Sankaraこれ楽作の義なり。八部力士。
三、MahesvaraNarayana摩醯首羅王。那羅延堅固王。Mahesvaraこれ大自在にしてNarayanaこれ原質に拠り生じたる。大自在天部なるか。
四、KumbhiraDhakapila金毘羅王。Kumbhira鰐とDhakapila赤犬なり。大夜叉の名なり。広野鬼神部。
五、VasuVarna婆藪仙人。善き天蓋の義なり。ヴァルナなり。水神部。
六、PurnaCapalaSindra満善車王。Purnaこれ満ち足りたる、またガンダァルヴァの一。Capalaこれ移ろい易き、また蒼鉛や鼠また病気をもたらす悪魔の名なり。SindraこれSinduraならば鉛丹もしくは象なり。もしくは全て樹木の一名なり。夜叉や悪魔なり。満善車鉢真陀羅。
七、SucaMavara摩和羅女。Sucaこれ監視せる女の義なり。Mavaraこれ参加者の義なり。薩遮摩和羅。
八、KurantantaPangira一族を繋ぐ祭儀の義なるか。戦神部。
九、Vibakararaja毘婆迦羅王。畢婆伽羅。この場合おそらくパールヴァティーなり。山神部。
十、ArhagunaVitasavara価値ある勝者、快楽自在の義か。流行神部。
十一、BrahmaSampara梵天。梵天衆の義なり。梵天部。
十二、Yamara五部浄居炎摩羅。自在、普華、遍音、光髪、意生の五天子なり。不還天部なれどAnagaminアナアガーミンこれ未至の義なれば本来は未だ至らざる天の義なり。不還天部。
十三、Sakradeva帝釈天。インドラなり。三十三天部。
十四、MahasriLaksmi大弁功徳天。大功徳吉祥天。欲界天女部。
十五、Dhritarastraraja東方天。持国天王。乾闥婆部。
十六、Hariti神母天。鬼子母神。神母女等大力衆。
十七の一、Virudhaka毘楼勒叉天。増長天。鳩槃荼部。
十七の二、Virudhaka毘楼勒叉天。増長天。薛茘多部。
十八の一、Virupaksa毘楼博叉天。広目天。龍部。
十八の二、Virupaksa毘楼博叉天。広目天。富単那部。
十九、Vaisravana毘沙門天。多聞天。護世天部。
二十、MayurarajaSuvarnaprabhasa金色孔雀王。大孔雀仏母。鳥王部。
二十一、Isana自在天。二十八部大仙衆。大仙部。
二十二、Manibhadra金大王。宝賢大将。薬叉部。
二十三、SancintyaPurnabhadra散脂大将。満仙王。Sancintyaこれ正了思の義にして散支大将なり。Purnabhadraこれ満賢大将なり。散脂大将弗羅婆。
二十四の一、NandaUpanandaSagaraIpara難陀龍王。難陀、跋難陀これナーガなり。蛇龍部。
二十四の二、NandaUpanandaSagaraIpara沙羯羅王。沙羯羅、伊鉢羅これナーガなり。Iparaこれ意味の不明瞭なれどこれElapattraの誤訳なり。Elapattraこれ漢訳にては伊羅鉢なり。これを伊鉢羅と写し誤りたるがIparaなり。海龍王部。
二十五、AsurarajaGandharvaGarudarajaKimnaraMahoraga阿修羅王。乾闥婆王。迦楼羅王。緊那羅王。摩侯羅王。これおそらく二十八部にすべく諸神を纏めたるなり。阿修羅王乾闥婆迦楼羅王緊那羅摩侯羅。
二十六、水神火神天雷神地電神。これ単一の神名に非ざれば下等な天候地象神の集まりにして、おそらくMarut輝き煌くマルト神群やRudra咆哮せるルドラ神群と思えり。水火雷電神。
二十七、Kubhanda鳩槃荼。下地鬼神部。
二十八、Pisaca畢舎遮。餓鬼部なるか。

Dhrtarastra持国天ドゥリタラーシュトラ仏典にいう十六大国のうちカーシー国の王とクル国の王の両説あり。クル国の王としては戦争の後に修行に入りKuberaクベーラ天に昇るとあり。
Virudhaka増長天ヴィルーダァカ仏典にいう十六大国のうちコーサラ国の王。もしくはSuryavamsaスーリヤヴァンシャの大王Iksvakuイクシュヴァークの子。
Virupaksaヴィルーパークシャ広目天Suryavamsa日種王朝の大王Vaivasvataつまりヤマの子孫にしてシヴァの従者。

七宝と九宝

七宝これスヴァルナSvarna、金なり。ルーピヤRupya、銀なり。ヴァイドゥーリャVaidurya、クリソベリルキャッツアイなり。ムサーラガルヴァMusaragalva、白珊瑚なり。アシュマガルバァAsmagarbha、エメラルドなり。ローヒタムクタRohitamukta、赤真珠なり。カルケタナKarketana、ヘソナイトこれガーネットの一種にしてランカー島の名産なり。カルケタナこれクリソベリルとされることあれどカルケタナのランカー島でガーネット属の特徴たる卵塊状にとれる赤い石にして薔薇石マイカイとも訳されたればクリソベリルであるべくなし。
このうちカルケタナにおいてはSphatikaスパァティカ、水晶と交換されることあるべし。またアシュマガルバァをダイヤモンドと交換せることあるべし。

九宝これヴァジラVajra、ダイヤモンド金星なり。マーニキャManikya、ルビー太陽なり。マラカタMarakata、エメラルド水星なり。プシュパラーガPusparaga、トパーズ木星なり。ゴーメダGomeda、ヘソナイト月昇交点ラーフRahuなり。ニーラNila、サファイヤ土星なり。ムクタMukta、パール月なり。ヴィドルマVidruma、赤珊瑚火星なり。ヴァイドゥーリャ、クリソベリルキャッツアイ月降交点ケートゥKetuなり。されどGomedaこれ牛の脂の義なればドロマイトなり。古来より非結晶質のゴーメダは最上の彫像石材として結晶は宝石として珍重されたり。ゴーメダこれヒマラヤからインダスにかけてとれるとあればヘソナイトにあらずドロマイトなること明白なり。

釈尊の子ラーフラRahulaあり。これ障碍あるいは龍蛇の義とされるは誤りなり。Rahuは月昇交点にしてLaこれ与えるの義なり。ラーフラこれ月昇交点から得たる、与えられたるの義なれば占星術上の生まれによる名なり。そもそも経にラーフラの誕生せるときに月食があったとあればこの義もとより明らかなり。隠徳と訳されたるべし。

ラーフこれ掴む者、捕える者の義なり。捕獲者なり。ヴィプラチッティVipracittiとシンヒカーSimhikaの子なり。ヴィプラチッティこれ霊感をえたる心の義にして僧侶もしくは祭司なり。シンヒカーこれ獅子女の義なり。おそらく僧侶が天文を観察して発見したるがラーフなり。
してラーフの別名にシンヒカータナヤSimhikatanaya獅子女の息子の義なるあればラーフこれ龍蛇の子のありうべくなし。
ラーフつまり執曜の王なればパーンチカやシヴァと同様に祟り神は篤く崇拝すれば福神になるとして尊崇されたし。龍蛇の類とされたるは後世の付会なり。ラーフこれナイルリティーまた不動明王の方角たる南西に宮殿を持てり。

注意すべくあり。現代においてはヘソナイトはゴーメダにカルケタナは結晶質のクリソベリルにヴァイドゥーリャはラピスラズリの呼び名を主として、またベリルやクリソベリル等あらゆる青と緑の宝石の呼び名に変化してること多し。
またヘソナイトこれジャーゴンまたヒヤシンスの名称を共有するジルコンと通用されることあり。されどプラーナ文献を見たるにカルケタナの色彩の多様なれば、おそらくジルコンもヘソナイトと共にカルケタナと呼ばれたると思われり。

またマラカタこれエメラルドの色の持てるの義ありて、おそらくペリドットやトルマリンまたアベンチュリンやアゲートの緑色なせるものもマーラカタとしてマラカタと通用せたると思えり。
花の色なせる花染の義なるプシュパラーガこのトパーズもまたイエローコランダムと通用するなり。ルビーはピンクコランダムまたはパパラチャと通用して蓮染の義なるパドマラーガとされるこれあり。
赤真珠と赤珊瑚はルビーに通用するなり。白珊瑚はシャコまた白真珠に通用するなり。

アシュマガルバァとムサーラガルヴァは瑪瑙また琥珀またシャコと通用されるなり。
アシュマガルバァに至りてはダイヤモンドとも通用されたるがアシュマの義これ石、ガルバァの義これ胎蔵なれば原義は瑪瑙と思われり。瑪瑙これ子宮の如くなれば分割せるに中に宝石の育ちたり。時にあらゆる赤宝石をアシュマガルバァと称せり。
ムサーラガルヴァこれムサーラ王の義、ガルヴァこれ水晶の義つまり王の水晶の義なり。時にカレースやラズライトまたラピスラズリなどを含む、あらゆる青宝石をムサーラガルヴァと称せり。